「アエトニア侯爵の嫡男か」
「いえ、ウォルガー様ではありません。アイザックという男です。なんでも、マルフィからの留学生だとか。入学早々邪魔されてしまいましたわ」
「マルフィ? 西大陸からの留学生も来ているのか。しかし、マルフィ程度の国ではな。西大陸の覇者グランツ国からの留学生が来てくれればいいのだが。そうすればお前を嫁がせられる」
「まぁ、私の美しさと教養をもってすれば可能でしょうね。でも、グランツのような大国の貴族や王族はこの国に留学するわけがありませんわ。そういえば、お父様。グランツの王太子殿下とはどのような方なのですか? どんな噂も聞きませんが」
「あらゆる縁談を断っているらしい」
「あら? 見た目に自信がないのかしら。権力と資産があるなら、私がお付き合いを考えてもよろしいのに」
「わからん。私もお会いしたことはない。そもそもミニム王国自体がグランツ国とはあまり付き合いがない。ミニム……北大陸は昔から南大陸との交易の方が盛んだからな。十大商会のサイファ商会、レット商会、ツェル商会が北大陸と南大陸を牛耳っておる」
「十大商会といえば、オルニス商会の娘のマイカが入学してきていましたわ。なんでも美術部門の一部などをこちらに移したそうです」
「ほぅ。それは有意義な情報だな。西大陸全土の経済を支配していると言っても過言ではないオルニス商会がミニム王国へ来たのか。ぜひ、友達になりなさい」
 私は友達というフレーズを聞き、思わず眉間にしわが寄る。

 たしかに交友を結んでおいて損はない。
 しかも、マイカは美術部門の最高責任者。美術に関する知識やたぐいまれなる鑑定眼を持ち、世界でも五本の指に入るほどの実力と資産を誇っている。

 入学当初、友達になってあげる代わりに見返りとして貢がせてやってもいいと思い、マイカへ声をかけたところ、『結構です』と一刀両断された。

 私がわざわざ声をかけてあげたのに、断るなんてなに様のつもりなのだろうか。