二年くらい前だっただろうか。
 その頃俺はシルフィもウォルガーも大切なので、ウォルガーがシルフィのことを本当に好きなのならば、正々堂々と戦いたいと思っていた。

 そのため、俺はウォルガーに手紙を出した。
 本当はマルフィ出身ではないこと、そしてシルフィのことが好きだということを手紙で伝えたのだ。

 すると、彼からは、【シルフィに関しては家族同然で大切に思っているから、恋愛感情はない。だから、君を応援している】という返事が届いた。

「あぁ、シルフィ様とお近づきになりたい。いくら積めばお茶ができるのかしら。お金ならありあまるほど稼いでいるから、いくらでも払えるわよ」
「おい、追いつめられて台詞が拝金主義になっているぞ」
 ウォルガーはマイカから少し距離を置きながら、引きつった顔をして言う。

「そもそもマイカはどうしてシルフィが好きなんだ? 接点はないだろ」
「私とシルフィ様は以前より、この栞で結ばれているんですわ」
 そう言ってマイカは制服のポケットからハンカチを開き、大切そうに一枚の栞を取り出した。

「押し花の栞……?」
 俺はシルフィと栞が結びつかず首をかしげるが、マイカはうっとりした瞳で栞を見つめている。
 金儲けのことしか興味がないはずのマイカがこんな表情をするなんて、信じられない。

「私とシルフィ様、ふたりの秘密ですわ。私たちは三年前からつながっております」
「あぁ、もしかしてシルフィになにか修繕をお願いしたのか」
「なぜ、知っているのですかっ!?」
 マイカが驚いて、ウォルガーを睨みつける。

「また婚約者特権ですの?」
「特権って……。前にシルフィから直接聞いたんだよ」
「そうでしょうね。シルフィ様は修繕のことを秘密にしているはずですから。私の幸運の手袋を修理してもらう時、直してくださる方の名前は秘密。それが条件でしたもの」
「幸運の手袋ってなんだ?」
「私が十歳で初めて高額の絵画をマーケットで掘り出した時に、身につけていた手袋ですわ。使いすぎて穴があいたんです。穴はかわいらしいハートの模様で塞がれました。私は、直してくださった方が気になり、その代金をダイヤで支払いましたわ。宝石だと行先を調べやすいんです。その宝石が換金されたら、そこを調べればいい――」
「マイカ。くれぐれも修繕の件は黙っていろよ。シルフィが裁縫をしていたのが周りにバレたら家の汚名だ。知らないかもしれないが、この国では高貴な身分の女性は労働が禁止なんだよ。裁縫は労働に含まれるんだ」
 ウォルガーは険しい顔で、マイカを探るようにじっと見た。