それから一年。私の生活は少しずつ変わってきた。

 一番大きく変わったのは、前世で大好きだった裁縫を始めたことだ。
 でも、それは公にできない秘密の趣味。

 だって、この国では身分が高い女性は労働をしない。
 私が暮らす北大陸ではそれが常識だ。

 労働=家の没落。
 働かなきゃならないほど、家の地位や資産が貧しいということになるからだ。

 そのため、ずっと裁縫を我慢して生活していたけれど、私付きのメイドが大切にしていたセーターに穴があいて落ち込んでいたのをきっかけに、転機が訪れた。

 セーターをダーニングで修繕してあげたのだ。
 ダーニングというのは、虫食いや生地すれを毛糸などで補強すること。

 完全に復元するというわけではなく、修繕跡が模様のようになるのだ。
 大切な衣服を長く愛用できるようにする、とても素敵な技法だ。

 日本の文化では刺し子が近いかも。

 ダーニングで修繕したものがメイドから彼女の友人へ広がり、今では修繕の依頼がくるまでになった。

 修繕した物には〝押し花の栞(しおり)〟を添えてラッピングし、持ち主のもとに戻すことにしている。
 もちろん、私がそんな仕事をしているのは秘密だ。この事実を知っているのは、家族とウォルガーのみ。

 順調なように見えて、実際はその修繕品に関して悩みがある──。