楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 それぞれの屋敷から迎えが来たことを知らされ、私たちは名残惜しいけれど、パーティーを閉会した。
 明日にはアイザックはミニム王国を離れてマルフィへ戻る。

 そうなったら、なかなか会えなくなるだろう。
 私たちは残された時間の尊さを感じ、すぐに別れることができなかった。
 迎えの馬車の前に集まり、四人で尽きることのないおしゃべりをしている。

「僕ね、今までで一番楽しい誕生日だったよ。本当にありがとう」
 プレゼントの包みと壁に飾っていたお祝いメッセージの紙を抱え、アイザックがふんわりと笑っている。

「寂しいな。明日でお別れなんてさ。見送りにいくからな。夕方出発だっけ?」
「……うん。そのことなんだけれど」
 さっきまで笑顔を浮かべていたアイザックは、急に眉を下げ口ごもりながらうつむいた。

 いったい、どうしたのだろう。
 彼は息をゆっくりと吐き、私たちを見つめた。
 いつもと違い表情が引き締まって凜々しい。

「あのね、明日見送りにこないでほしいんだ」
「え?」
 当然見送りにいくつもりだった私たちは、一秒もズレることなく三人いっせいに間の抜けた声を上げた。

「みんなと一緒に過ごしてすごく楽しかった。ずっとここで暮らしたいって思えるくらいに。でも、僕強くなりたいんだ。だから、僕が強くなるまでみんなと会うのは我慢する。何年かかるかわからないけれど、強くなってまたみんなの前に戻ってくるから、その時はまた遊んでね」
 アイザックの透き通るような海色の瞳は滲んでいるけれど、滴(しずく)となって頬を伝うことはなかった。

 ぐっと唇を噛みしめ、手を強く握りしめている。

 最後のお別れくらいさせて! もうしばらく会えないんだよ? って言いたい気持ちをぐっと押し殺してただ静かにうなずく。

 アイザックの決意を揺るがすわけにはいかない。
それは私だけじゃなくウォルガーたちも同様の気持ちだったらしく、ふたりとも泣きそうな顔をしたまま、ただうなずいた。

「シルフィ」
 名前を呼ばれると、ぎゅっとアイザックに抱きしめられた。
「あの時、声をかけてくれてありがとう。お父様に国を守れるくらいに強くなれって毎日言われていて、正直、そんなの無理だって思っていたんだ。僕はお父様とはちがうから。でも、強くて優しい君と出会って変わった。シルフィを守れるように強くなりたい。シルフィが僕を助けてくれたように」
「アイザック……」
 彼の体は小さく震えていた。

 いろいろな想いを抱えて結論を下した彼を見て、私は泣きそうになった。

「手紙出すね」
「うん。僕も出すね」
「俺らにも出せよ。こっちからも手紙出すからさ」
 ウォルガーとラルフが、私を抱きしめるアイザックを左右から挟むように抱きしめた。

 我慢していたのに、こらえきれず視界が滲んでいく。私だけじゃなくて、ウォルガーたちも声を殺して泣いている。

 こうして私たちはアイザックとお別れをすることになった。

 いつか再び笑って四人で再会できる日まで──。