「え、ちょっ、待って!?」
「ごめん!」
「すみません、泣かせるつもりでは」
 予想外の反応だったため、全員が焦りだす。

 てっきり笑顔で受け入れてくれると思っていたから、泣かれるのは想定外。
 嫌だったのか!?と青ざめながらアイザックを囲んでなだめ始めると、彼が腕を伸ばして私たちに抱きついた。

「みんな、ありがとう」
 その台詞を聞き、私たちはやっと笑顔になった。

「僕、誕生日をお祝いしてもらったのが数年ぶりだから、すごくうれしいよ」
「数年ぶり……?」
 いったい、どういうこと?
「アイザックのご両親はお祝いしてくれないの?」
 なるべく平坦なトーンで尋ねた。

「うん。でも、仕方がないんだ。お母様は病気の療養のために王都から離れた所で暮らしているし。お父様とは一緒に暮らしているけれど、誕生日なんかよりも剣術や武術の腕を磨けって怒るから」
「武術習っているの?」
「そうだよ。僕の家は代々武術や剣術に優れた一族なんだ。それなのに、僕は全然ダメで……すごく弱い。お父様や師匠が、アイザックは人よりも弱いから倍以上の鍛錬を積まなければならないって。いっぱい練習して強くなれって言うんだ」
 私たちはまだ十代だ。子供に求めるには、あまりにも重すぎる期待だと思う。

 アイザックの家庭環境を私は知らない。
 でも、誕生日くらいお祝いしてくれてもいいじゃないかという怒りを覚える。

「このままお父様のそばにいると僕が壊れちゃうって、お祖母様がミニム王国に連れてきてくれたんだ。友達をつくってゆっくり遊びなさいって」
 壊れるって……。

 親の過度のプレッシャーに押しつぶされそうになっていたのを知り、私は心が張り裂けそうになった。
 アイザックのことを愛して気にかけてくれるお祖母様がいてくれてよかったわ。お祖母様がいなかったら、アイザックは本当に壊れてしまっていたかも。

 本当によかった。私はお会いしたことがない彼のお祖母様に感謝した。

「今日は、今までの分もお祝いしようね」
 私は手を伸ばすとアイザックの頭をなでる。
「シルフィの言うとおりだ。俺たちがお祝いするぞ!」
「えぇ。さっそくパーティーを始めましょう」
 ウォルガーとラルフがアイザックの背に手を添えてソファへ座るように促すと、アイザックが顔を緩ませながら小さくうなずく。
 アイザックにとって一番記憶に残る誕生日パーティーになるよう願った。