「こんにちは!」
 私が声をかけると、彼はビクッと体を大きく動かし、瞳に不安の色を滲ませた。
 もう少し優しく声をかければよかったなぁ。いきなり大声で話しかけられたら、誰でも防衛本能が働いちゃうよね。

「こ、こんにちは」
 彼は最大限の警戒をしつつも、私に挨拶を返してくれた。
 容姿だけではなく、声も女の子みたいでかわいい。あっ、左目の下に泣きぼくろがある。

「私、シルフィ・グロース。ウォルガーのお隣に住んでいるの」
「ぼ、僕はアイザック」
「アイザック、いい名前だね! もしかして、西大陸出身? 髪の色がこの辺りでは見ない黒だから。綺麗な髪だね」
「うん。グラ……マルフィなんだ。お祖母様と一緒にミニムにあるお祖母様のお友達の家に滞在しているんだけれど、こっちに友達がいなくて……」
「そっか。なら、私と友達になろうよ。一緒に遊ぼう!」
「いいの……?」
「もちろん。ウォルガーとラルフを紹介するよ。きっとアイザックと友達になってくれる。ふたりとも私の幼なじみなの。さぁ、行こう」
 そう言って手を伸ばせば、アイザックは頬を完熟リンゴのように赤くして瞳を泳がせる。

 自分の手を見つめた後、ゆっくりと手を伸ばした。
 私とアイザックは手をつないでウォルガーのもとへ向かった。

 さっきまでウォルガーは大勢の子に囲まれていたけれど、今はラルフとふたりで飲み物を手に話をしている。
 ちょうどいい。これならゆっくり紹介できる。

「ウォルガー、ラルフ!」
 私がふたりの近くまで行って手を振ると、彼らは振り返り手を上げた。

「ん? 隣の子、見かけない顔だな。もしかして、シルフィの友達か?」
「さっきお友達になったんだ。アイザックっていうの。マルフィから来たんだって」
「そうか。シルフィの友達なら俺の友達でもあるな!」
「どんな理屈なんですか」
 ウォルガーの言葉に対して、ラルフが若干あきれた口調で言う。
 そんなふたりの間に挟まれているアイザックは、おろおろしていた。

 彼がどれくらいミニム王国に滞在するかわからないけれど、滞在期間中は一緒にいっぱい遊べるといいなぁ。

 この国でいろいろ楽しい思い出をつくってほしいし。そんなことを考えながら、私はアイザックを見つめていた。

 これが私たちとアイザックの初めての出会いだった。