生まれる前からの婚約者で、長い月日を共にしたため、いろいろ思うことはあるのだろう。
「みんな、迷惑をかけてごめんなさい」
「迷惑のわけがないだろ。友達を助けるのは当然。まぁ、ひとり、友達枠じゃなくて熱狂者枠が混じっているけれど」
ウォルガーはマイカを一瞥した。
「さぁ、行こう。反撃の開始だ」
アイザックの言葉にみんながうなずくと、ラルフとウォルガーが扉を開けてくれた。
部屋と廊下を隔てていた障害物がなくなり、オーケストラの奏でる音楽にのりながらダンスを踊っている人たちの姿が見える。
会場にいる大半の人々は中央で踊っている殿下とエクレール様のふたりに見とれ、感嘆の声をあげていた。殿下はエクレール様を見て顔を緩め、エクレール様は穏やかに微笑んでいる。
はたから見れば幸せそうなふたりだ。
「おい、シルフィ様がいるぞ!」
扉付近にいた貴族が私に気づき声をあげると、波紋のようにざわめきが会場内に広がり、人々の視線の矢にさらされる。
それをかばうようにアイザックが私の前に立てば、ルイーザが音楽隊に向かって片手を上げて演奏を止めさせた。
「ねぇ、シルフィ。シナリオ補正という運命から逃れられないなら、悪役令嬢とヒロインをすげ替えるわよ」
ルイーザがそう言うと、私の肩にポンと手を添える。
──それって、手紙に書かれていた言葉だわ。あっ、もしかして!
私は手紙の意味がやっとわかった。
突然止まった音楽や貴族たちのざわめきによって、殿下たちは私たちの存在に気づいたらしく、私たちのもとまでやって来た。
殿下は腕を組みながら憤怒という言葉がぴったりの表情を浮かべて口を開く。
「どういうつもりだ? お前の処遇はまだ決まっていないはず。誰が外に出ることを許可したんだ。今さらエクレールに謝罪でもしにきたのか?」
「俺が許した。なにか問題が?」
「問題点が理解できないほど愚かなんだな、君は。彼女はエクレールを階段から突き落としただけではなく、ほかにも彼女に対して様々ないじめを行なったんだ。なんの罪もない愛しいエクレールを傷つけた」
「シルフィはそんなことをしていない」
「好きだからかばうのか。君も甘いな。シルフィに言いくるめられるなんて。生徒たちがちゃんと証言したんだ。シルフィがエクレールを階段から突き落としたと。裏は取ってある」
「──証人ってこの方たちですか?」
マイカの声が私の背に聞こえたので振り返ると、彼女は数人の生徒を連れていた。
彼らは皆、青ざめ、身を縮こまらせて震えている。
私がエクレール様を突き落としたと証言した子たちだ。