私たちの教室は一階なので階段を上って二階にある職員室へ向かう。
職員室と書かれたプレートが下げられている部屋をノックし、中へと足を踏み入れる。
室内は先生たちが一堂に会しているため、とても広々としたつくりになっていた。いくつもの執務机が合わさるようにつなげられ、先生たちが座っている。
もうすでに授業に向かっている先生もいるのか、席に座っているのはまばらだ。
「ハーノルト先生」
私はちょうど入り口付近の席に座っている白髪交じりの初老の男性に声をかけると、先生はゆっくりとこちらに顔を向けた。
「すみませんね、わざわざ来てもらって」
「いえ」
「この本を持っていってもらいたいんだよ。お願いできるかな?」
ハーノルト先生が渡してきたのは、三冊の本だった。
日直ふたりで来てほしいということだったので、てっきり地図などの大きなものだと思っていたので拍子抜けする。これならふたりで来る必要はなかった。
ちらりとベロニカさんを見ると、彼女は「えっ? まさかこれで呼んだの?」ということがすぐに読み取れる顔をしている。
ベロニカさん、素直だわ。顔に出ちゃっている。
「では、さっそく教室に運びますね」
私は手を伸ばして先生が差し出している本を受け取り、職員室を後にする。
「シルフィ様。私が本をお持ちいたしますわ。シルフィ様に持たせるわけには……。というか、そもそもこれくらい先生が持ってくればいいのに」
「私もちょっとそう思っちゃった。でも、本はこのまま私が持つわ。職員室まで来た意味がなくなっちゃうから」
「では、私にふたつ渡してくださいませんか。私も来た意味がなくなってしまいます」
「えぇ、そうね。では、お願いするわ」
ふたりで小さな笑い声をあげながら、本を渡す。
その後、廊下を進んで階段に向かった。
もうすぐ授業が始まる時間帯のため、生徒の姿はほとんどない。
急がないと二時限目が始まる。
はやる気持ちのまま階段を下りようとした時、「ベロニカ君!」という焦りを含んだハーノルト先生の声が背後から聞こえてきたので、私たちはいっせいに振り返った。