一時限目を終える鐘が教室内まで届けば、教壇に立っていた経済学の先生が教科書を閉じた。

 経済学の先生……アガパンサス先生は二十代後半の男性で、いつも日替わりで明るめのジャケットを着用している。
 気さくであまり生徒たちとの垣根がないタイプのため、話をしやすく人気だ。

 ちなみに経済学の先生であると同時にこのクラスの担任でもある。

「では、授業はこれにて終了する。皆、課題を忘れるなよ。あー、それからアイザック。ちょっと俺の所に来てくれ。殿下との件で聞きたいことがある」
 殿下の件ってもしかして朝のこと?
 私をかばって殿下と対峙してくれたから、アイザックはまったく悪くはない。

「アガパンサス先生」
 私は立ち上がって事情を説明しようとすると、先生は静かに微笑んだ。

「一応、念のためにアイザックからも話を聞くだけだから。心配するな」
「……はい」
 相手は王太子殿下。敵に回すには相手が悪すぎる。
 きっと、エクレール様はここまで考えていたのだろう。

 アイザックを巻き込んでしまった。
 うつむいて自己嫌悪に陥っていると、突然ぽんぽんと優しく頭をなでられたので顔を上げるとアイザックが立っていた。

「大丈夫だ。問題ないから。ちょっと行ってくる」
「……うん」
 アイザックはそう言うと教壇へ向かった。
 先生もアイザックも大丈夫だと言っているけれど、念のためにお父様に事情を話して学園に伝えてもらおう。
 そう決意をしているとベロニカさんが近づいてきた。

「シルフィ様。今、お時間よろしいですか? 一時限目が終了しましたので、職員室へ参りましょう」
「えぇ、そうね。行きましょう」
 私は立ち上がるとベロニカさんと共に教室を出た。