異変はさっそく翌日に起こる。
 学校の馬車止めでアイザックと合流し一緒に教室へ向かっていると、「誰だ!」とまるで落雷のような青年の怒号が廊下まで響き渡ってきた。

 朝の賑やかな校舎内を静寂に包み込むくらいの怒りに対して、私とアイザックだけじゃなくて周りの生徒たちも足を止めている。

「なにごと?」
 首をかしげながら声がしたクラスに向かうと、ちょうど教室の扉が開いていたので中を覗くことができた。
 教室内は張りつめた空気に包まれ、生徒たちは微動だにせず双眸を窓際の席を凝視している。

 窓際の席には眉を下げ泣きだしそうなエクレール様が座っていて、その傍らには怒り心頭の殿下の姿が。
 殿下の手にはふたつに破られている教科書が握られていた。

「嘘……」
 教科書を切り裂くのは、シルフィがヒロインに対して行なういじめのひとつ。

 でも、私はいっさいそんなことはしていない。それなのに、ゲームのシナリオどおりに事が進んでいっている。崖っぷちギリギリに立っているかのような恐怖が押し寄せてきた。

 どうしよう……なんでこんなことに……。

「殿下。大丈夫ですわ。私が耐えればいいだけですから」
 エクレール様が儚げに微笑めば、殿下が沈痛な面持ちで彼女の肩に手を添える。

「君が耐える必要なんてない。このようなことは許されないんだ。犯人を見つけて絶対裁いてみせる。王太子の名のもとに」
「犯人は……」
「もしかして、心あたりがあるのか」
 小さくわななきながらエクレール様が扉の方へ顔を向けたため、私はビクッと両肩を動かした。