「ねじ曲げられた運命をもとに戻そうとする力が働き、悪役令嬢・シルフィのシナリオどおりに物事が進んできているのかも」
「そんなどうして……」
「おそらく、エクレールの存在だと思うわ。マイカがシルフィに対して好感を持つことにより、断罪フラグは解消された。ここで終わりだとよかったんだけれど、ゲームには登場しないエクレールの存在がシナリオに干渉したのかも。彼女はシルフィに対して悪意を持っているから」
「エクレール様の強い憎しみが、私の悪役令嬢フラグを発動させたということ? でも、エクレール様からの嫌がらせなどは収まっているわ」
「それが収まっていないの。夏休み明けに判明したんだけれど、襲撃事件の主犯がエクレール様だったの。現在、身柄引き渡しと処罰に関して、アイザック様とミニム王国が協議中。身柄の引き渡しを求めているアイザック様と国外へ醜態が漏れるのを恐れているミニム王国側とでもめているのよ」
「そんな……命を狙うまで嫌忌されていたなんて……」
氷水の中に全身浸かっているかのように、体の芯まで冷たくなっていく。
人の命を奪おうとするまでの憎悪。
その強さに対する恐怖が私へ襲ってくる。
私は自分の体を抱きしめるように腕を回した。
そこまでして四大侯爵の地位が欲しいの? それとも私の存在はそこまで忌み嫌われるものだったの?
「ごめん。やっぱり言うべきじゃなかった。アイザック様から口止めされていたんだけれど、今回の件に関係あるかもしれないと思って……」
「ううん。知れてよかったわ」
「ねぇ、シルフィ。エクレールには近づかないで。それから、念のためにもひとりにならないでね。アイザック様かクラスメイトと一緒にいてほしい」
ルイーザの淡々とした口調が現実をつきつけてくる。
どうかこのまま平穏な学園生活を送らせてほしい。
でも、きっとそれは無理なんだろう──。