「えぇ。あれがきっかけでマイカに嫌がらせをするの。階段から突き落としたり、教科書を破いたり。そしてウォルガーの怒りを買い、夜会で婚約破棄からの断罪。どうしてシナリオが進むの? フラグは立っていないのに」
「ねぇ、それなんだけれど、ちょっと心あたりがあるの。ほら、夏休みに運命論について話したじゃない。あれ覚えている?」
「覚えているわ。馬車の中で話をしたわね」
ウォルガーの別荘に行く道中で私たちは前世の記憶を持っていることをマイヤーヌへカミングアウトした。
その時に彼女が運命論の話をしたのを覚えている。
運命論というのは、この世の出来事はすべて決まっていて、変えることができないという論だ。
マイヤーヌが危惧していたのは、シナリオどおりにいくのが運命ならば、ねじ曲げられた運命をもとに戻そうとする作用が働くかもしれないということ。
つまり、狂ったシナリオを本来の正しいシナリオに補正する力が働いてしまい、悪役令嬢フラグから逃れられない可能性があるということだ。