その時、エクレール様が振り返って私に向かって不適な笑みを浮かべたため、背筋に冷たいものが伝って体から血の気が引いてしまう。
新学期が不穏な始まりを告げているようで怖い。
「アイザック様。先に教室に行ってくれるかしら? 私、シルフィとお話があるの」
「しかし……」
「大丈夫。私がいるから。シルフィはちゃんと教室に送るわ。約束する」
ルイーザは私の肩に手を添えると、真剣な表情でアイザックを見た。
アイザックはなにか言いたそうに唇を動かしかけたけれど、言葉を発することをせず静かにうなずく。
「わかった」
「じゃあ、私たちは温室に立ち寄ってから行くので」
「またね、アイザック。後で教室で」
私とルイーザはアイザックと別れると、温室へと向かった。
到着し、それぞれ椅子に座るとふたりで盛大なため息を吐き出す。
「最悪だわ。きっとエクレールが殿下に取り入ったのよ。よりにもよってあんな性悪女に落ちるかな。あー、頭痛がする。婚約破棄なんて王太子殿下の個人の意思でどうにかできるわけがないのに。政治的なつなぎを持つために行なうのよ。すっかり頭にお花が咲いて本当に馬鹿だわ。エクレールの家は伯爵家。つり合わない」
ルイーザが天を仰ぎながら言う。
「殿下、やっぱり婚約破棄するつもりだよね」
「でしょうね。それよりも気になるのが、さっきの出来事よ。あれは悪役令嬢、シルフィのシナリオよね?」
私は大きくうなずいた。
やっぱり、ルイーザも気づいていたのね。