(エクレール視点)


「なんて使えない奴らなのよ! 全員捕まったって愚かすぎ。お父様が用意したのは、本当にロノア国の王太子殿下を殺した暗殺集団黒き死神なんですの? 偽者だったんじゃないですか」
 私は粉々に砕け散ったティーポットやカップを何度も踏みながら叫ぶように言うと、テーブルの上にあったケーキプレートに手を伸ばした。

 手に取り床に叩きつけるようにしてぶん投げると、硬質なもの同士がぶつかり合う音が聞こえ、真っ白いプレートが床に弾けるように散らばった。

 ──苛々が収まらない。

 私が大切にしているお茶の時間に伝えられたのは、シルフィの暗殺成功ではなく失敗の情報。
 あれだけ大金を積んだのに、むざむざ失敗してプロ失格だ。

「まさか、うちにある食器をすべて割るんじゃないだろうね?」
 テーブル越しに座っているお父様が静粛にお茶を楽しんでいるのが腹立たしい。
 こっちは、はらわたが煮えくり返りそうなのに。

「食器なら新しく買えばいいですわ。それに掃除はメイドが勝手にやりますし。全員捕まったせいで軽々しく依頼主がバレたら、どうなさるおつもりで?」
「それは問題ないだろう。拷問されても吐かないように訓練されている。もし、仮に彼らがしゃべったとしても、ラバーチェ家の名前は出せないな。むざむざと馬鹿正直に正体を明かして襲撃依頼なんてするわけがない」
「なんて使えない暗殺者だったのかしら。自分で探せばよかったわ」
「誰を差し向けても同じだったかもしれないぞ? 騎士団に所属している古い友人が襲撃事件を調べているから少し聞いたんだ。どうやら、シルフィたちと一緒に同行した黒髪の男が強かったらしい」
「黒髪の男……」
 私の頭をよぎったのは、いつもシルフィのそばにいる留学生だった。

 マルフィから来たと言っていたが、もしかして騎士の家系だったのか。

 剣の腕が立つなんて聞いたことがないし、帯剣しているのも見たことがない。邪魔されるなんて予想もしていなかった。

「またシルフィに負けたな」
 耳に入ってきたお父様の台詞に対して、私は鼻で笑った。
「──お父様。誰に物を言っているのですか? 私はエクレール・ラバーチェ。念には念を……保険はかけておりますわ」