自分が悪役令嬢に転生していることに気づいてからしばらくたった。
 その間、シルフィに関してもだいぶわかってきた。

 シルフィは四大侯爵家の人間らしく、身分にこだわらず人々に接している。
 奉仕活動にも熱心で両親と共に孤児院の訪問をしていた。

 時々前世と現世の記憶が混じり混乱することもあったけれど、今はすっかり落ち着いている。

 前世のことは相変わらず覚えているけれど、それは「あぁ、こんなことあったな」という淡泊な感情。もしかしたら、シルフィとしての精神が強いのかもしれない。
 
 両親や兄との家族間の関係は良好だ。
 婚約者のウォルガーとも仲良しだし、充実した日々を過ごしている。

 このままヒロインに関わらないようにして平和に暮らしていたい。

「……もういっそのこと、他国に留学したいけれど、貴族は王都の学園に通うのが習わしだし」
 私はそう言うと、ウォルガーの屋敷の玄関前でため息を吐き出した。

 今日はウォルガーの十二歳の誕生日パーティー当日。
 私はウォルガーから招待され、馬車に揺られてお隣へ。

 ウォルガーの誕生日パーティーということもあり、私の格好はいつもよりも着飾っているが、その衣装は、本当にシンプル。

 せっかく貴族令嬢に転生したのでふんわり甘めのドレスが着たいけれど、運河沿いの貿易都市として名高いミニム王国ではフリルやレースのドレスは貴族が着ることがない。

 ──ゲームの評価でもドレスの件はマイナスな意見が多かったんだよね。やっぱり、ユーザーも貴族令嬢なら華やかなドレスを期待しちゃうから。

 どうやらこれはミニム王国に限らず、ミニムがある北大陸全体の風習みたい。
 シンプルなデザインのドレスやワンピースが貴族のたしなみ。
 飾り立てなくても貴族としての品があふれるという信条だそうだ。

 余計な手を加えず食材本来の味を堪能する──ような感じなのかな?

 玄関ホールでアエトニア家の執事に出迎えられ、執事の案内のもと、パーティー会場である当主の間へ。

 扉を開けてもらって中に入ると、室内は贅の限りを尽くしたものだった。
 円形状の花飾りのレリーフが施された白い天井には、等間隔にクリスタル製の荘厳なシャンデリアが設置されていて、圧倒された。

 明るくコミュニケーション能力が高いウォルガーらしく、ホールには様々な身分の彼の友人やその両親などがお祝いに駆けつけ、談笑している。