「ねぇ、アイザック。聞いてもいい?」
「いいよ」
「アイザックって婚約者はいるの?」
ワンピースの裾を握りしめながら、尋ねた。
緊張しすぎて声がわずかに裏返ってしまったため、羞恥心から顔が熱い。
「シルフィ。実は俺、ミニム王国に来たのは、みんなに会うためだけではな──」
アイザックが言いかけた瞬間、そばにあったローズマリーの茂みがガサガサと葉同士のこすれる音をさせ揺れて動きだした。
突然の出来事に、私は短い悲鳴をあげながらアイザックの腕にしがみつき、ぎゅっとまぶたを閉じる。
弾みで日傘が地面へと落ちる音が聞こえたかと思うと、私の足首付近からにゃぁーとかわいらしい鳴き声が聞こえてきた。
「猫……?」
ゆっくり伏せていたまぶたを開けて足下へと視線を落とせば、金色の瞳が印象的な黒猫がいた。
ぐりぐりと頭を私にこすりつけているので、むき出しの肌に触れてくすぐったい。
かわいい。首輪をつけているから飼い猫かも。
「人慣れしているな。もしかして、管理人が飼っているのか?」
「そうかもしれない。かわいいなぁ。名前、なんていうんだろう」
私はしゃがみ込んで首輪についている丸いプレートを手に取ると、名前と住所が彫られていた。
住所はここなので、管理人さんか住み込みの従業員が飼い主だろう。