「ありがとう。騎士の皆さんがいてくださるから大丈夫よ。でも、気をつけるね」
「えぇ。本当にお願いします。私、襲撃の件を聞き、心臓が止まるかと思いましたわ。ドS黒メ……ではなく、ルイーザ様。シルフィ様のことをよろしくお願いします。一番この中で修羅場くぐっていてメンタル鋼っぽいですので」
「あんた、ほんといい根性しているわ。シルフィのことは気にせずさっさと王都に戻りなさいよ。あんたが帰りたくない!とごねたせいで時間が押しているんだから」
「ドSなだけじゃなくて、毒舌もプラスされましたわね」
「なにか言ったかしら?」
 ルイーザがマイカに顔を寄せてにっこりと微笑むと、マイカはさっと視線を逸らして顔を青ざめ始める。

「えっ、近い……怖い……」
「とにかく、マイカ。シルフィのことは俺たちがいるから大丈夫だって。心配するな」
「えぇ。ウォルガー様、お願いしますね」
 マイカは不安が消えないのか、顔色が冴えない。

「あっ、そうだわ。マイカ。これよかったら」
 私は手にしている花柄の布に包んである物を渡すと、彼女が不思議そうに首をかしげる。

「シルフィ様、これは……?」
「サンドイッチ。道中に食べて。お昼ご飯食べないで出立するって聞いて、急いで作ったの。御者さんたちの分も入っているわ」
 お別れ前のお茶の時間に厨房を借りて作っておいたものだ。サンドイッチなら片手で軽く食べられるし。

「ありがとうございます。私のために……! 食べずに飾っておきたいですわ」
「できれば食べてほしい。一応、保冷剤代わりに凍らせた果物を入れているから早めに食べてね」
「シルフィ様の手作りサンドイッチ」
 マイカは受け取ると、なぜがアイザックの方へ荷物を掲げ持ち誇らしげな顔を浮かべた。
 一方、アイザックは、苦々しい表情で彼女を見ている。

「では、皆様。お嬢様の急な訪問を歓迎してくださって、ありがとうございました。私共はそろそろ……」
 御者の声を聞き、私たちは馬車から少し離れる。

「道中お気をつけて」
「ありがとうございます。さぁ、お嬢様。そろそろお時間ですよ。皆様に最後のお別れをしてください」
「わかったわ。では、名残惜しいですが、私は王都へ旅立ちますわ。シルフィ様、お土産をたくさん買って参りますわね。癪(しゃく)だけれど、アイザック様。この中で一番強いと思いますのでシルフィ様のことを頼みます」
「もちろんだ。シルフィのことは俺が必ず守る」
 アイザックは力強くうなずくと私の肩に手を触れ、こちらを見た。

 彼の瞳とかち合うと、目尻を下げ優しく目を細められてしまう。
 気恥ずかしいけれど、ずっと見ていたい自分がいる。

「ちょっと待って。なんで気軽にシルフィ様に触れているんですかっ!? しかも、シルフィ様と見つめ合っちゃっているし。やっぱり、残るーっ! シルフィ様がオオカミの餌食になってしまいますもの。それにひとつ屋根の下なんて危険極まりないですわ」
「じゃあ、出発しますね。皆さん、お世話になりました」
「えっ、ちょっと。待っ……」
 御者は会釈をすると、颯爽と馬車を走らせた。

 マイカは窓から身を乗り出してこちらに向かってなにか言っているけれど、馬車と私たちの間の距離が遠いため聞き取りにくい。

「マイカ、またね!」
 私は彼女が見えなくなるまで手を振り見送ったが、ほんの少し寂しさもある。
 ヒマワリのような存在の彼女は、元気で周りを明るくしてくれていたから。