「私、悪役令嬢のシルフィ・グロースに本当に転生しちゃったの……?」
待って。いったいどんな経緯があって、シルフィ──私はここで眠っていたのだろうか。
そういえば、さっき誰かが『お加減いかがですか』と言っていたよね。
あー、なんとなく思い出してきた。たしか、王都の子供たちの間で風邪が流行っていて、私にもそれがうつって、生死の境をさまようほどの高熱を出してしまったんだ。
それが転生の引き金になったのかも。
「どうしよう……」
私は頭をかかえてその場にしゃがみ込んだ。
たしかに一生に一度くらいはお嬢様生活がしたいと思ったことはある。でもまさか、悪役令嬢になるなんて!
シルフィを待っている未来は、断罪、没落、追放、死亡エンドという四重の苦しみ。
どうせならヒロインに転生していればよかったのに。
そうすればお金も使いまくれるからカフェもオープンできたのになぁと半泣きになっていると、再度「お嬢様?」と女性の心配そうな声が聞こえたので、私は反射的に「はい」と返事をする。
ゆっくりと扉が開かれ、メイドと彼女に付き添われている少年の姿が見えた。
男児は緩いパーマのかかった黒と灰色の中間色の髪に、紅茶色の大きな瞳をしている。元気がありあまっていそうな雰囲気を持つ彼の手には、色鮮やかな花束が。
彼こそ、私の婚約者であるウォルガー・アエトニアだ。
「お嬢様!?」
「シルフィ!?」
ふたりは叫ぶように私の名を呼ぶと、駆けつけてきてくれた。
メイドは私の様子をうかがいながら体に手を回して立ち上がるのを手伝ってくれ、ウォルガーは心配そうに眉を下げて私の額に手をあてると熱をはかってくれている。
ふたりを見て心配かけたことに対して、罪悪感をひしひしと感じた。
「ごめんなさい。ただちょっと休んでいただけなの」
まさか、前世を思い出して頭をかかえていましたなんて言えない。言ったら、絶対に正気か?って思われちゃうわ。
「シルフィ。あまり無理すんなよー。病み上がりなんだから」
「えっと……ウォルガーだよね……?」
「なんで疑問形。そうだよ、俺だよ。家は隣同士だし婚約者だし、忘れる要素がないだろ。ほんと大丈夫か?」
「ごめん、なんでもない。寝起きだから混乱していたの」
「なら、いいけれど。ほら、見舞いの花。シルフィ、花が好きだろ。それから、これよかったら。俺の誕生日パーティーの招待状」
「ありがとう」
ウォルガーは屈託なく笑うと、花束と封筒を差し出す。
私は封筒の方を受け取る。花束はメイドが受け取ってくれた。
笑った顔がとてもかわいいけれど、数年後の未来では私のことを断罪するのかぁ。
ウォルガーが暮らしているアエトニア侯爵邸は私の家、グロース侯爵邸の隣。
しかも家同士はいずれも、侯爵の中でもとくに優れているとされている四大侯爵という名家。
もともと良好な関係だったけれど、両家がさらなる結束力を持つようにと、私が生まれて数ヶ月の段階で、陛下がウォルガーと私の婚約を決めた。
そんな取り決めにも、幼い私たちは反発することはなく、むしろ家族同然のように円満に過ごしている。こんなふうに風邪をひいた時にお見舞いにきてくれるくらいに。
でもゲームではこの先ヒロインが現れて、私とウォルガーの関係にヒビが入ることになるのだ。
今のうちに婚約破棄したいけれど、陛下の御心で決まったことだから反故にするのは不可能に近い。
それこそ、どっかの大国からの縁談が舞い込まない限り。
でも、私がウォルガーと婚約しているから、絶対にそんなことは起こらない。
どうやって死亡フラグ回避しようかな……。
ウォルガーのことを好きになって嫉妬に狂うことになるのだから、彼を好きにならなければいいのかも? 後はヒロインとあまり関わらないようにするとか。
ゲーム本編が始まるのは十六歳の時なので、まだ考える時間はある。
私は死亡フラグ回避を目指すことを強く心に刻み込んだ。
待って。いったいどんな経緯があって、シルフィ──私はここで眠っていたのだろうか。
そういえば、さっき誰かが『お加減いかがですか』と言っていたよね。
あー、なんとなく思い出してきた。たしか、王都の子供たちの間で風邪が流行っていて、私にもそれがうつって、生死の境をさまようほどの高熱を出してしまったんだ。
それが転生の引き金になったのかも。
「どうしよう……」
私は頭をかかえてその場にしゃがみ込んだ。
たしかに一生に一度くらいはお嬢様生活がしたいと思ったことはある。でもまさか、悪役令嬢になるなんて!
シルフィを待っている未来は、断罪、没落、追放、死亡エンドという四重の苦しみ。
どうせならヒロインに転生していればよかったのに。
そうすればお金も使いまくれるからカフェもオープンできたのになぁと半泣きになっていると、再度「お嬢様?」と女性の心配そうな声が聞こえたので、私は反射的に「はい」と返事をする。
ゆっくりと扉が開かれ、メイドと彼女に付き添われている少年の姿が見えた。
男児は緩いパーマのかかった黒と灰色の中間色の髪に、紅茶色の大きな瞳をしている。元気がありあまっていそうな雰囲気を持つ彼の手には、色鮮やかな花束が。
彼こそ、私の婚約者であるウォルガー・アエトニアだ。
「お嬢様!?」
「シルフィ!?」
ふたりは叫ぶように私の名を呼ぶと、駆けつけてきてくれた。
メイドは私の様子をうかがいながら体に手を回して立ち上がるのを手伝ってくれ、ウォルガーは心配そうに眉を下げて私の額に手をあてると熱をはかってくれている。
ふたりを見て心配かけたことに対して、罪悪感をひしひしと感じた。
「ごめんなさい。ただちょっと休んでいただけなの」
まさか、前世を思い出して頭をかかえていましたなんて言えない。言ったら、絶対に正気か?って思われちゃうわ。
「シルフィ。あまり無理すんなよー。病み上がりなんだから」
「えっと……ウォルガーだよね……?」
「なんで疑問形。そうだよ、俺だよ。家は隣同士だし婚約者だし、忘れる要素がないだろ。ほんと大丈夫か?」
「ごめん、なんでもない。寝起きだから混乱していたの」
「なら、いいけれど。ほら、見舞いの花。シルフィ、花が好きだろ。それから、これよかったら。俺の誕生日パーティーの招待状」
「ありがとう」
ウォルガーは屈託なく笑うと、花束と封筒を差し出す。
私は封筒の方を受け取る。花束はメイドが受け取ってくれた。
笑った顔がとてもかわいいけれど、数年後の未来では私のことを断罪するのかぁ。
ウォルガーが暮らしているアエトニア侯爵邸は私の家、グロース侯爵邸の隣。
しかも家同士はいずれも、侯爵の中でもとくに優れているとされている四大侯爵という名家。
もともと良好な関係だったけれど、両家がさらなる結束力を持つようにと、私が生まれて数ヶ月の段階で、陛下がウォルガーと私の婚約を決めた。
そんな取り決めにも、幼い私たちは反発することはなく、むしろ家族同然のように円満に過ごしている。こんなふうに風邪をひいた時にお見舞いにきてくれるくらいに。
でもゲームではこの先ヒロインが現れて、私とウォルガーの関係にヒビが入ることになるのだ。
今のうちに婚約破棄したいけれど、陛下の御心で決まったことだから反故にするのは不可能に近い。
それこそ、どっかの大国からの縁談が舞い込まない限り。
でも、私がウォルガーと婚約しているから、絶対にそんなことは起こらない。
どうやって死亡フラグ回避しようかな……。
ウォルガーのことを好きになって嫉妬に狂うことになるのだから、彼を好きにならなければいいのかも? 後はヒロインとあまり関わらないようにするとか。
ゲーム本編が始まるのは十六歳の時なので、まだ考える時間はある。
私は死亡フラグ回避を目指すことを強く心に刻み込んだ。