「じゃあ、チームが決まったのでさっそく始めるか。ルールは単純明快。三チーム時間差で出発して先にゴールしたチームが勝ち。じゃあ、さっそくシルフィたちどうぞ」
 私はうなずくとアイザックと共にバラの迷路へと足を踏み入れた。

 迷路には色とりどりのバラが咲き誇り、私たちの姿を外から隠してくれている。

 ふんわりと鼻孔に漂ってくる濃厚なバラの香りとみずみずしい森の香りが混じり合って、心身をときほぐしてくれている。

 競争じゃなくて、ゆっくり歩きたい気分だ。
 懐かしいなぁ。昔、ウォルガーとラルフと三人でよく競争したっけ。

「シルフィは迷路が好きなのか? 朝食の時に、ウォルガーがシルフィが楽しみにしているって言っていたから」
「えぇ。初めてウォルガーの別荘に連れてきてもらった時から好き。小さい頃、よくウォルガーとラルフと競争してすごく楽しかったの。意外なことにラルフが一番はまっていたのよ」
 懐かしいなぁ。ちょうどアイザックと出会う前だったかも。

 一番先にゴールをした人が特別なおやつがもらえるという、おやつをかけた競争をしていた。特別といってもケーキに添えているフルーツが一個多いとか、おまけ程度だったけれど。

 でも、当時の私たちはその細やかな幸せが大きな幸福だった。

「……そうか」
 アイザックが寂しそうに笑って言ったのを見て、私はつい足を止めてしまう。

「ごめんなさい。私、なにか……」
「いいや、違うんだ。五年の月日の重みは大きいなぁと。自分で願いが叶うまで会わないって決めたのに、その間のシルフィをそばで見ることができなかった。仕方がないことなんだけれど、それがとても身に染みる。シルフィの思い出に俺はいない」
 それは私も一緒だ。
 アイザックについて知っているのが五年前の約一ヶ月の間と入学してから今までの期間のみ。
 
 もちろん、手紙のやり取りはしていた。
 でも、やっぱり直接顔を合わせるのと文面のみでは全然違う。