サロンは落ち着いた調度品で整えられており、窓からは心地よい風が入ってきている。
自然豊かな所だから、空気も澄んでいておいしい気がするなぁ。
ぐるりと囲むように木々が植えられ、綺麗な色をした小鳥が数羽止まっているので見飽きない。
──仮眠を取るならカーテン閉めきった方がいいよね。明るいと眠れないだろうし。
「アイザック、カーテン閉める?」
「そのままで問題ないよ」
「わかったわ」
そのままの状態にしておき、途中で会ったメイドに入れてもらった紅茶をサイドテーブルに置くとソファに腰を下ろした。
「どうぞ」
「ありがとう」
アイザックは私の膝に頭をのせるような形で横向きになると、まぶたを伏せる。
綺麗な漆黒の髪だなぁ。
さらさらしていそうだし。
私も前世では黒髪だったけれど、まったく違う。アイザックの髪は艶々としていて、なんとも言えず綺麗だ。
んー……手持ち無沙汰なので、本でも読もうかしら。
私はサイドテーブルに二、三冊置かれていた本を手に取ると、一冊選んで読み始める。
しばらく経つと、少し手が疲れてきたので、本を閉じてサイドテーブルへと戻す。
それから、寝息が聞こえてくるのに気づく。
視線を落とせば、アイザックが眠っているのが見えた。
「よかった。眠ってくれて……なんか、眠っているアイザックってかわいいなぁ。小さな頃を思い出すわ」
入学式では誰?と思うくらいに変わっていたけれど、寝顔はあどけなさを残しているため、初めて出会った時のことを思い出す。
懐かしさを感じながら、手を伸ばして彼の髪を梳くようになでた。
しばらくこのままの時間を堪能したい。彼とふたりの時間を──。
叶わない恋。
アイザックへの想いは、私の胸の内に残しておかなければならないだろう。
私とウォルガーの婚約は陛下が決めたこと。両家が反対しても覆らない。
抗うことができない現実のせいで気分がだんだんと落ち込んでくると、控えめなノック音が聞こえた。
声を出しても大丈夫かしら? 起きないかな?
と迷っていると、ゆっくり扉が開き、ウォルガーが部屋の外から中を覗き込んできた。
彼は声を出さず、ゆっくりと口を動かしている。
なにを言っているの?
首をかしげると、ウォルガーは指で下を何度か指すジェスチャーをしていたので、なにを言いたいのかわかった。
きっと、アイザックが寝ているのか?って、聞いているんだと思う。
私がうなずくと、ウォルガーは気配を消してこちらにやって来た。
床に敷かれている毛足の長い絨毯が衝撃を吸収するため無音に近いので、アイザックは眠ったままだ。
「メイドに聞いた。アイザックが仮眠を取るって」
「うん、そうなの。昨日、ずっと廊下で見守ってくれていたから」
「知っている。見張りがいるから、シルフィは大丈夫だって言ったんだけれどな。昨日の襲撃、アイザックもショックが大きかったのかもしれない」
「……そうなんだ」
ありがとう、アイザック。
私は彼の頬に触れながら、心の中で感謝の言葉を述べる。
「あのさ、シルフィ。俺たちの婚約って生まれてすぐ決まったよな」
「そうね」
「今まで居心地のいい関係でなにも問題なかったけれど、そろそろちゃんと考えなきゃならない時期にきていると思うんだ」
ウォルガーから急に真面目なトーンで言われ、私の心がざわりと音を立てた。