「シルフィ、寝ちゃった……?」
 ひっそりとした控えめな声が扉越しに聞こえてきた。この声は、マイヤーヌだ。

「お、起きているわ!」
 私はすぐさま身を起こして返事をすると、ベッドから出た。
 乱れた髪をさっと手で直すと扉を開ける。

「急にごめんなさい。ひとりで怖くて眠れな──」
 マイヤーヌはアイザックを捉えたのか、顔を真っ赤にさせた。
「本当にごめんなさい。お邪魔してしまって」
「いや、かまわない。マイヤーヌも眠れないのか?」
「えぇ。シルフィと一緒に眠ろうかなと思って……でも、戻ります。本当にお邪魔してごめんなさい」
 マイヤーヌは鼻の頭に汗をかきながら早口で言いきると扉を閉めようとしたため、アイザックが椅子から立ち上がった。こちらに来てマイヤーヌの前に立つと唇を開く。

「シルフィと一緒に眠るといい。シルフィも襲撃の件で眠れなかったから、俺が付き添っていたんだ。マイヤーヌが一緒にいてくれるなら、俺は出ていくよ」
「ですが……」
「気にしなくてもいい。シルフィのことを頼む」
 アイザックがマイヤーヌの横をすり抜け廊下に出ようとしたので、私は慌てて彼の腕に触れて止める。
 私の腕と違って彼の腕はがっしりしていて、たくましかった。

「付き合ってくれてありがとう。おやすみ」
「おやすみ。いい夢を。マイヤーヌもゆっくり休むといい」
「えぇ、アイザック様も」
 アイザックは軽く手を上げると、扉の外へと消えていく。
 私は寂しさを感じながらマイヤーヌをベッドへと促した。