「というかさ、危惧するのはマイカじゃなくてエクレールだと思うわ。〝エクレールの方が十分悪役令嬢〟の素質ありよ」
ため息交じりにルイーザが言うと、マイヤーヌが唇を動かす。
「メイドカフェをつくることになった禍根ですものね……貴族にとって領地経営は重要なもの。そこに手を出すなんて……」
「あれからエクレール、手を出してきてない?」
「えぇ、大丈夫。ありがとう」
エクレール様とはとくに問題はない。ただ、静かすぎて怖い。
「しかし、ゲームのキャラで〝エクレール〟なんて名前の子いた?」
ルイーザに問われ、私はゆっくりと首を横に振る。
エクレール様のようなクセの強い悪役キャラが出てきていたら、きっと覚えているはず。でも、まったく記憶にない。
「いなかったわ。でも、ゲーム内のミニム王国と現実のミニム王国はちょっと違うし……」
「たしかに同じところもあれば違うところもあったわ。シナリオが破綻しているか、シナリオとは関係のない世界なのかな? ゲームの世界では攻略対象者は全員学園に入学しているのに、王太子殿下は入学していないし。……って、マイヤーヌ、どうしたの? 真剣な表情をしちゃって」
ルイーザが訝しげな表情で隣を見たので、私も視線を追う。
すると、顎に手を添え、思案しているようなマイヤーヌの姿があった。
「シナリオが破綻または、シナリオが関係ないなら問題ないですわ。もしシナリオが運命と呼ばれるものならば、破綻したシナリオをもとに戻す動きが働いた場合が厄介だなぁと思ったの」
「もしかして、運命論? この世に起こるすべての出来事は運命で決まっていて、人が介入し回避できることではないってやつ」
運命論……? ルイーザが発した聞き慣れない言葉に対して、私は首をかしげる。
「えぇ、そうなの。〝シナリオどおりが運命ならば、ねじ曲げられた運命をもとに戻そうとする作用が働く〟。つまり、悪役令嬢ルートを回避しても、またなんらかの形で悪役令嬢フラグが立ってしまう。悪役令嬢ルートをまっとうするまで……」
「映画のような話ね。壮大すぎて混乱しそう」
その理論をはっきりと説明することはできないけれど、なんとなく把握はできた気がする。
もし、その理論が現実にあるならば、私の身にこれからシナリオどおりの物事が起こるのかも……。