──マイカがいないから、襲撃の件に関しては大丈夫だと思う。そもそも、命令をした悪役令嬢のシルフィは私だし。私は命令なんて誰にもしていないもの。

「ねぇ、ふたりとも。さっきからゲームや悪役令嬢という不明な単語が聞こえてくるけれど、なにかしら?」
 マイヤーヌが尋ねてきたので、私たちは視線を交えてうなずく。

 今までずっと一緒にメイドカフェで働いている仲間として、友人として彼女が信用できる人物だとわかるから話すことにした。
 ざっくりと私とルイーザの口から語られるのは、前世の自分たちのこと、そしてゲームの世界の話……。

 マイヤーヌは静かに私たちの話に耳を傾けている。
 やがて、聞き終わると静かにまぶたを閉じて再び開けるとゆっくり口を開き、言葉を発した。

「まさか、私たちがマイカに意地悪をする悪役令嬢だなんて。しかも、攻略対象者のルートに入れば、悪役令嬢たちは断罪、没落、追放。そして死亡。というバッドエンドのシナリオ。絶対に嫌ですわね。そんな未来」
「でしょ? だから、私も警戒していたのよ。マイカのこと。なるべく関わらないようにって。シルフィもでしょ?」
 ルイーザの問いに対して、私は大きくうなずく。
 私のことを気遣ってくれているし、温かい心を持っている。

「うん。最初はあまり関わらないようにしようって思っていた。でも、お店に来てくれてマイカのことを少しずつ知って……とても優しい人だと思ったの」
「私はゲーム内のマイカは存じ上げませんが、私の世界のマイカは存じ上げています。シルフィを守るならともかく、危害を加えることに加担することは絶対にありません」
 マイヤーヌの台詞にルイーザが同調し、何度も首を縦に振る。
「だよね。あの子、シルフィを慕っているし。シルフィが、国が欲しいから買って?って、ねだったら喜んで買うわよ。なんせ、十大商会のオルニス家だから」
 国を欲しいと思ったこともないし、そもそも国は売買できるものではないと思う。