「離せ、離せお前ら!裏切り者め、恩知らずめ、女王の国で生きてきたくせにその女王を殺そうというのか!」



「ルネ……!ルネだめよ!」



「アリスタァァァッ!」



 ザシュッ、という鈍い音とともに視界の先で鮮血が飛沫を上げる。観衆の雄たけび、愛した人間の絶叫。

 尽き果てたはずの絶望と憎悪が大きな音を立ててその首をもたげた。

 自分を庇ったばっかりに、最後まで忠義を尽くしたばかりに。

 どうして、どうしてどうしてどうして。

 騎士として正しくあっただけの彼がどうして見せしめのように殺されなくてはいけなかったのか。

 誉れ高き最期すら遂げてはならないのか、自分は、こんなもののために今まで女王として生きてきたわけではない。



「お、のれ……おのれ、おのれおのれおのれえええぇっ!貴様ら、許さぬ、何度貴様らが生まれ変わっても呪ってやる!この国を呪いお前らを呪い未来永劫苦しめてやる!災いを、この国に晴れることなき永遠の暗雲を!貴様らに!貴様らに、死より果て無い絶望を目にもの見せてやる!ああああああああっ!」



 この国のすべてを慈しみ、憎まれてもなおそれさえ愛し、包み込み、だれよりもこの国のために心を砕いてきた女王。

 この国が千年王国たる基盤を作り上げた美しく聡明な女王。

 その最期の言葉は、この世界の誰よりもこの国を恨み、憎み、呪ったものであった。