事実がどうであれ、歴史がどうであれ、夢がどうであれ、もしそれで深い絶望を覗き込んでしまったのだとしても、この道を手を取りともに歩んでまいりましょう。

 そうして私たちがいきていることで新しい歴史となり、新しい事実となり、来世のだれかの幸せな記憶となるのでしょうから。



「……すまない、取り乱したようだ。白紙のはなしは、なかったことにしよう」



「そもそも独断で決められるものでもないのですけれどね」



「まったくだ、どうかしている」



「お茶をもう一杯いかがですか?」



「いただこう」



 ねえルネ、あなたに声をかける日はもうこないけれどだからと言ってあなたと言葉を交わした日々がなくなるわけではないのよ。

 アリスタとしてあなたを信じ、あなたを愛し、あなたに愛された日々が消えることなんてこれから先ありえないのよ。

 記録がなくなり、人々が消え、この世界が滅んだとしても、ほかならぬこの私があなたをずっと覚えているわ。

 目の前のリシャール様はあなたであってあなたでないけれど、この私はアリスタであってアリスタでないけれど、これから先リシャールとクロエは歴史に名を残す国王と王妃となってその事実を誰もがしるところとなり、

けれどその裏で私がアリスタであったことを覚えていましょう。



 そうして私たちは、何度も同じ世界で歴史をつないでいくのですから。