「いえ、殿下。その、来年からは新しい本も一人で見ることが増えるかもと思って」
「えっ、そうなのか。もしかして城には来なくなるのか?」
「いいえ、いいえ!リシャール様が学び舎にいらっしゃいますれば、私は城には参りませんから。明日すぐにでもとはいかなくなるだけでございます」
「ああ、そうか。そうだな、たしかに僕は来年から学院に通うがそれは君と会わない理由にはならんだろ」
「そう、ですか?」
「学院に通うのは毎日ではないし、それだって朝から晩まででもない。ほかの子息やご令嬢との交流も、王族としての務めは果たすがそれは君とは関係ないだろう。クロエは僕が好ましいから嫌がらずに来てくれていたのではないのか?」
もちろん、好ましいからに決まっている。国王からの打診などなくとも、遅かれ早かれ城に来てリシャールと過ごすことになっただろうし自分はそれを望んだだろう。
いまだに歳の近いロランはどうにも子供っぽすぎてうまく話も合わないし、気まずい雰囲気になりやすい。
それはロランも感じているのか申し訳なさそうにすることもあるし、癇癪を起すこともある。
どちらに非があるわけでもないが、クロエとリシャールという組み合わせがやはり特別なのだろうというのは大人たちが一番思っている。
「はいリシャール様、このクロエ、一番に殿下をお慕いしている自負がございます」
「ならそれでいい、いままでも、これからも」
「はい、かしこまりました」
二人並んで本に目を落とす。
ああ今生よ、なんて幸せな人生なのでしょうね。