「さあ、クロエ。もう城に着く。教えた通り、国王陛下にご挨拶できるようにね」
「はい、おとうさま。がんばります」
わかりきったこと、体が覚えていることを改めて学べるのは面白かった。
復習のようなものもあったし、この国ならではの作法もある。
まだ五歳なのに優秀だと喜ぶ使用人や先生たちの顔を見るのは素直に嬉しかった。
なんせ前世は最初からできて当然、褒められたことなど覚えている限りでは無い。
父の目を盗み、衛兵にも頭を下げれば驚いたように居住まいを正される。
邸でならともかく、貴族は挨拶をしないのが普通なようなのだ。
私が王女であったならそんなこと許さなかったろうがあいにくただの大公令嬢である。勝手にやる分にはまあ、いいだろう。
この国の特産である漆喰はその変幻自在な色が売りであったなと思いながら城壁を見上げる。見る角度によって白っぽかったり、青みががったり、黄色く見えたりするのだ。
この城も例外ではなく、とはいえ最後に見たときと比べてそんなに劣化していない。
もっと太いパイプで貿易をすべきだったかと思い悩むけれど、あの国はもはや死んだのだ。やめよう、と頭を振った。
「エンディア大公」
「ロラン王子殿下、ごきげんよう」
「その娘は?」
「私の娘のクロエでございます、クロエ、こちらはわが国のロラン第二王子殿下だよ」
「おうこくのほこり、ロランおうじでんか。クロエ・エンディアでございます」
「クロエか、ふーん」
この国の王室には正妃の子である王子が一人と姫が二人、側妃の子である王子が二人いると聞いている。
ロランはたしか、側妃の第一子で歳は九つだったなと思いながら挨拶をすればまんざらでもなさそうにほほ笑んでいた。
ただ、なんとなくわかるのだがこの少年はルネではないなとクロエは内心がっかりしていた。