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「ついてはさ、この人の借金を俺が返したいわけ。」
「わかりました。美花さん、借金についての経緯を詳しくお話しいただけますか?」
そこからまた数十分、真崎先生を中心に一通り話しを最初から聞いていただく。
「ふむ…」と少しため息をついた真崎先生は、銀縁眼鏡を外した。
「…借金の整理はかなり出来そうですね。色々と訳ありなので、払わなくて良いものもあるかと。
それから…逆に払っていただきましょうか、相手側には」
「は、払って貰う…?」
「そうですよ。伝統ある老舗を潰しにかかり、その上、貴方のような美しい方を陥れ自分のものにしようとした…そんな連中、痛い目に遭えば良い。」
真崎先生は、切れ長の目をスッと細め、口元を緩ませる。
…どうしよう。
その爽やかな笑顔が怖い。
この人…スイッチが入るとSっ気が出てくるタイプなのでは…。
大体、伝統ある老舗って…確かにひいおじいちゃんの代から続いてはいるけど、うち、ただの八百屋ですけど。
「良いね〜真崎先生。俺も無駄な金は払いたくないしね。どんどんやっちゃって?」
「そうですよ!美花さんをいじめる様な奴ら、ぶっ倒されて当然す!」
「…ちょっと待て、中田。お前、さっきから気になってたけど、何で『美花』って呼んでんだ。」
「え?もー…良いじゃないっすか。真崎先生だって呼んでますよ?つか、田宮さんがヤキモチ!新鮮!」
「はあ?!気になったから聞いただけだろうが!」
じゃれ合いが始まった田宮さんと中田さんを無視して、真崎先生は私にまたにっこり笑う。
「とりあえず、借金と同額の1000万円請求しましょう。何なら、刑事告訴して、ムショから出られないよう情報操作を…」
「あああああの!とにかく、借金の整理をまずはしていただけますか?」
このままだと、相手を地の果てまで追い詰めるのではと抱いた危機感。
「田宮さんに払って貰うまでもなく、自分で払える額になるなら、そうしたいですし…。」
「は?何言ってんの?そんなの俺が許さいないけど。」
怪訝な顔をする田宮さんツカツカと私に歩みよる。そのまま腰から抱き寄せた。
こ、腰から抱き寄せる?!
た、田宮さん、人前ですけど!
「あー…もう…我慢してくださいよ、田宮さん。話が終われば俺達は出ていくんだから…」
「無理だろ。田宮さんには。衝動で動いている生き物だ。俺達しか知らん事だが。」
いや、何となく私も知ってます。
だって、そうじゃなきゃ、今日出会った見ず知らずの女に「結婚しよう」なんて言わないでしょう。
「大丈夫ですよ、美花さん。女性に対して衝動的なのは初めて見ましたんで!」
中田さん、大丈夫の意味がわかりません!
中田さんと真崎先生は至って普通に私が入れたコーヒーを召し上がっている。
「美味いな、コーヒー。美花さんクラスになると、コーヒーの味も格別なのか。」
いや、それただのホテル据え置きのドリップコーヒーですから、真崎先生。
それより、この状況にもっと驚いてください!
「お前の借金は俺が返すんだよ。絶対。」
田宮さんの丸く大きな二重の目。ブラウンの瞳がまっすぐ私を映し出している。
「絶対お前には一円足りとも出させないからな。」
…必死。
そんなに女性に苦労しているのかな。
借金返す方がよっぽど天秤が重い気がするけど、人の…しかも今日出会ったばかりの私の借金を返してまで結婚したいと望んでいるなんて。
きっと、凡人の私には計り知れない苦労があるのだろう。
「あ、あの…」
「何だよ。」
「私…借金を返して頂かなくても、田宮さんと結婚します。」
大きなその目が驚きで見開く。
「ダメ…ですか?」
少し小首を傾げて見せたら、今度は不服そうに目を細め、その唇を少し尖らせた。
「…ダメじゃない。」
「え?!借金返させるんですか?!」
中田さん、そこは驚くんですね。
「美花が自力で返したいっつーなら返しゃ良い。真崎先生ついてりゃ、返済も正規のものだけになるだろうし。
だけど、しばらくSPをつけさせて貰う。」
え、エスピー?!
「そ、そんなのいりません!」
「安心しろって、民間で頼むからピストルとか物騒なもの持ってねーよ。」
そう言う問題じゃありません!
私、守って貰うほどの要人では…
「美花さんに何かあったら田宮さん、狂っちゃいそうなんで言うこと聞いてあげてください!」
…そうかな。
私みたいな境遇と考えの持ち主を新たに見つければ良いだけの話なのでは。
「とにかく、借金返したいっつーならそれが条件。わかった?」
田宮さんの大きな掌が私の左頬を包み込む。
「…お前の周りを変な連中にウロウロされたくないんだよ、俺は。」
相変わらず真っ直ぐに私を映し出している田宮さんの瞳。
笑顔のない表情は、けれどとても穏やかにも見えて。
頰から伝わる田宮さんの温かな体温に、少しだけ気持ちがこみ上げ頰が緩んだ。
…わかってる。
田宮さんが私を失いたくないのは、“女性を寄せ付けないための結婚相手”を失わないようにだって。
それでも、嬉しかった。
こうやって、心配してくれて、守ろうとしてくれる。
私の為に、私の事を考えてくれる。
理由なんて関係ない。
今、そうしてくれる事が、私をどれだけ救ってくれているか。
ありがとうございます…田宮さん。
私、ちゃんと役割を全うできるように頑張りますね。
「ついてはさ、この人の借金を俺が返したいわけ。」
「わかりました。美花さん、借金についての経緯を詳しくお話しいただけますか?」
そこからまた数十分、真崎先生を中心に一通り話しを最初から聞いていただく。
「ふむ…」と少しため息をついた真崎先生は、銀縁眼鏡を外した。
「…借金の整理はかなり出来そうですね。色々と訳ありなので、払わなくて良いものもあるかと。
それから…逆に払っていただきましょうか、相手側には」
「は、払って貰う…?」
「そうですよ。伝統ある老舗を潰しにかかり、その上、貴方のような美しい方を陥れ自分のものにしようとした…そんな連中、痛い目に遭えば良い。」
真崎先生は、切れ長の目をスッと細め、口元を緩ませる。
…どうしよう。
その爽やかな笑顔が怖い。
この人…スイッチが入るとSっ気が出てくるタイプなのでは…。
大体、伝統ある老舗って…確かにひいおじいちゃんの代から続いてはいるけど、うち、ただの八百屋ですけど。
「良いね〜真崎先生。俺も無駄な金は払いたくないしね。どんどんやっちゃって?」
「そうですよ!美花さんをいじめる様な奴ら、ぶっ倒されて当然す!」
「…ちょっと待て、中田。お前、さっきから気になってたけど、何で『美花』って呼んでんだ。」
「え?もー…良いじゃないっすか。真崎先生だって呼んでますよ?つか、田宮さんがヤキモチ!新鮮!」
「はあ?!気になったから聞いただけだろうが!」
じゃれ合いが始まった田宮さんと中田さんを無視して、真崎先生は私にまたにっこり笑う。
「とりあえず、借金と同額の1000万円請求しましょう。何なら、刑事告訴して、ムショから出られないよう情報操作を…」
「あああああの!とにかく、借金の整理をまずはしていただけますか?」
このままだと、相手を地の果てまで追い詰めるのではと抱いた危機感。
「田宮さんに払って貰うまでもなく、自分で払える額になるなら、そうしたいですし…。」
「は?何言ってんの?そんなの俺が許さいないけど。」
怪訝な顔をする田宮さんツカツカと私に歩みよる。そのまま腰から抱き寄せた。
こ、腰から抱き寄せる?!
た、田宮さん、人前ですけど!
「あー…もう…我慢してくださいよ、田宮さん。話が終われば俺達は出ていくんだから…」
「無理だろ。田宮さんには。衝動で動いている生き物だ。俺達しか知らん事だが。」
いや、何となく私も知ってます。
だって、そうじゃなきゃ、今日出会った見ず知らずの女に「結婚しよう」なんて言わないでしょう。
「大丈夫ですよ、美花さん。女性に対して衝動的なのは初めて見ましたんで!」
中田さん、大丈夫の意味がわかりません!
中田さんと真崎先生は至って普通に私が入れたコーヒーを召し上がっている。
「美味いな、コーヒー。美花さんクラスになると、コーヒーの味も格別なのか。」
いや、それただのホテル据え置きのドリップコーヒーですから、真崎先生。
それより、この状況にもっと驚いてください!
「お前の借金は俺が返すんだよ。絶対。」
田宮さんの丸く大きな二重の目。ブラウンの瞳がまっすぐ私を映し出している。
「絶対お前には一円足りとも出させないからな。」
…必死。
そんなに女性に苦労しているのかな。
借金返す方がよっぽど天秤が重い気がするけど、人の…しかも今日出会ったばかりの私の借金を返してまで結婚したいと望んでいるなんて。
きっと、凡人の私には計り知れない苦労があるのだろう。
「あ、あの…」
「何だよ。」
「私…借金を返して頂かなくても、田宮さんと結婚します。」
大きなその目が驚きで見開く。
「ダメ…ですか?」
少し小首を傾げて見せたら、今度は不服そうに目を細め、その唇を少し尖らせた。
「…ダメじゃない。」
「え?!借金返させるんですか?!」
中田さん、そこは驚くんですね。
「美花が自力で返したいっつーなら返しゃ良い。真崎先生ついてりゃ、返済も正規のものだけになるだろうし。
だけど、しばらくSPをつけさせて貰う。」
え、エスピー?!
「そ、そんなのいりません!」
「安心しろって、民間で頼むからピストルとか物騒なもの持ってねーよ。」
そう言う問題じゃありません!
私、守って貰うほどの要人では…
「美花さんに何かあったら田宮さん、狂っちゃいそうなんで言うこと聞いてあげてください!」
…そうかな。
私みたいな境遇と考えの持ち主を新たに見つければ良いだけの話なのでは。
「とにかく、借金返したいっつーならそれが条件。わかった?」
田宮さんの大きな掌が私の左頬を包み込む。
「…お前の周りを変な連中にウロウロされたくないんだよ、俺は。」
相変わらず真っ直ぐに私を映し出している田宮さんの瞳。
笑顔のない表情は、けれどとても穏やかにも見えて。
頰から伝わる田宮さんの温かな体温に、少しだけ気持ちがこみ上げ頰が緩んだ。
…わかってる。
田宮さんが私を失いたくないのは、“女性を寄せ付けないための結婚相手”を失わないようにだって。
それでも、嬉しかった。
こうやって、心配してくれて、守ろうとしてくれる。
私の為に、私の事を考えてくれる。
理由なんて関係ない。
今、そうしてくれる事が、私をどれだけ救ってくれているか。
ありがとうございます…田宮さん。
私、ちゃんと役割を全うできるように頑張りますね。