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「…すんごい派手な着物だね。七五三が嫌で逃げ出して来た?」
「なっ?!ち、違います!」
慌てて、掴まれている手を少し乱暴に振り払った…けど。
この乱れ様、怪訝に思われても仕方ないよね。
少し着物を直しながら肩越しの階数表示を気にしていたら、その人は唇の両端をキュッとあげて口元だけ笑った。
「…平気。俺が押した階しか止まらないから。VIPカードをピッとやるとね?専用エレベーターに切り替わるんだよ。」
専用…エレベーター?
「32階より上は、特別な人しか入れない。ちなみに俺の行き先は…40階。」
つまり…あのボンボンがVIPカードを持っていなければ追っては来られないってこと…。
あのボンボン、もし持っていたら、絶対使うよね。
そう言う、権力があからさまにわかる状況が好きだから。
と言うことは、持っていない可能性が高いわけで、追ってくる可能性は…低い。
チンとエレベーターが目的階についた事を知らせた。
「どうぞ?」とその人に降りる様に促され、恐る恐る降りた40階。
「お待ちしておりました、田宮様。」
専用コンシェルジュだろうか、落ち着いた紳士が一人、丁寧にお辞儀をし、「どうぞ」と部屋に案内をしてくれる。
「あ、あの…」
「いいよ。どうせしばらく動けないでしょ?そんな乱れまくってる格好中々見ないからね。興味あるから、話聞かせて?」
ロイヤルスカイタワーホテルのVIPカードを持つほどの財力の持ち主。
この人は、確実にセレブと呼ばれる人という事で…今、暇つぶしが欲しいのかもしれない。
助けていただいたわけだし、話を聞きたいならば、私のつまらない話でもこの人にとっては自分の世界ではあり得ない庶民の話で刺激的なのかもしれない。
言う通り、紳士なコンシェルジュに案内されたスイートルームへと足を踏み入れた。
ドアを入った先には、座り心地の良さそうな大きなソファが2脚相対して置いてあり、奥にはカウンターバー。
そして、その奥にもう一つ部屋があって、どうやらそこがベッドルームになっている様だった。
田宮様と呼ばれたその人は、ジャケットを抜いて、ソファの背もたれにかけると、カウンターバーに行き、グラスを二つ取り出す。
「何か飲む?」
「い、言え…大丈夫です。」
落ち着かない私の前のローテーブルに「とりあえずこれね」とミネラルウォーターを置いてくれた。
「…で?何で追いかけられてたの?」
自分は氷とウィスキーをグラスに入れて一口コクリと飲む。
それからカウンターにもたれた。
…明らかに暇つぶしで酒のつまみ扱いだな。
そうは思ったけれど、緊迫して追い詰められていた状況から脱する事が出来た恩の方が上回る。
一度息を吐き出してから、事の成り行きを簡単に説明した。
「…そっか。それであいつに襲われそうになったんだ。まあ…男としてはね。気持ちはわかる…かもね。」
「そ、そうですか…?」
「うん。手に入れられると思ったのに、土壇場でダメになったらね。カッとなるでしょ。単純な人なら。」
単純…確かに、あのボンボンはそうかも。
コクンとまたウィスキーを一口飲んだその人は、少し小首を傾げて穏やかに笑う。
「結婚…イヤなわけ?やっぱり。」
「そ、それは…。ただ、逃げ出してきた今、これからどうしようと途方にはくれています。冷静に考えて、やっぱり結婚すべき…かなって。今は。今なら激怒かもしれないけれど戻れるし。」
「それでいいの?」
「まあ、結婚に夢見る歳でもありませんから」
お父さんがあんな風に言ってくれたのは本当に嬉しかった。
お父さんとお母さんの子供に生まれてよかったって心底思った。
だからこそ、やっぱり助けたい、二人を。
もう一度着物を直して、帯を手の感覚で結び直す。
それから、田宮さんに会釈した。
「助けていただき、ありがとうございます。本当に恐かったから、助かりました。変なことに巻き込んでしまってすみませんでした。」
そのまま、「では」と踵を返そうとした瞬間。
「ちょっと待って?」
呼び止められ、そのまま手首を掴まれた。
「あ、あの…。」
驚いている私をよそに、田宮さんの綺麗な顔が歪み、そのブラウンがかった瞳が好戦的な光を放つ。
「…見つけた。」
“見つけた”…?
疑問符を頭に浮かべた途端、もっと田宮さんの体が近づいた。
「どうせ結婚するんだったら、俺と結婚しろよ。」
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「…すんごい派手な着物だね。七五三が嫌で逃げ出して来た?」
「なっ?!ち、違います!」
慌てて、掴まれている手を少し乱暴に振り払った…けど。
この乱れ様、怪訝に思われても仕方ないよね。
少し着物を直しながら肩越しの階数表示を気にしていたら、その人は唇の両端をキュッとあげて口元だけ笑った。
「…平気。俺が押した階しか止まらないから。VIPカードをピッとやるとね?専用エレベーターに切り替わるんだよ。」
専用…エレベーター?
「32階より上は、特別な人しか入れない。ちなみに俺の行き先は…40階。」
つまり…あのボンボンがVIPカードを持っていなければ追っては来られないってこと…。
あのボンボン、もし持っていたら、絶対使うよね。
そう言う、権力があからさまにわかる状況が好きだから。
と言うことは、持っていない可能性が高いわけで、追ってくる可能性は…低い。
チンとエレベーターが目的階についた事を知らせた。
「どうぞ?」とその人に降りる様に促され、恐る恐る降りた40階。
「お待ちしておりました、田宮様。」
専用コンシェルジュだろうか、落ち着いた紳士が一人、丁寧にお辞儀をし、「どうぞ」と部屋に案内をしてくれる。
「あ、あの…」
「いいよ。どうせしばらく動けないでしょ?そんな乱れまくってる格好中々見ないからね。興味あるから、話聞かせて?」
ロイヤルスカイタワーホテルのVIPカードを持つほどの財力の持ち主。
この人は、確実にセレブと呼ばれる人という事で…今、暇つぶしが欲しいのかもしれない。
助けていただいたわけだし、話を聞きたいならば、私のつまらない話でもこの人にとっては自分の世界ではあり得ない庶民の話で刺激的なのかもしれない。
言う通り、紳士なコンシェルジュに案内されたスイートルームへと足を踏み入れた。
ドアを入った先には、座り心地の良さそうな大きなソファが2脚相対して置いてあり、奥にはカウンターバー。
そして、その奥にもう一つ部屋があって、どうやらそこがベッドルームになっている様だった。
田宮様と呼ばれたその人は、ジャケットを抜いて、ソファの背もたれにかけると、カウンターバーに行き、グラスを二つ取り出す。
「何か飲む?」
「い、言え…大丈夫です。」
落ち着かない私の前のローテーブルに「とりあえずこれね」とミネラルウォーターを置いてくれた。
「…で?何で追いかけられてたの?」
自分は氷とウィスキーをグラスに入れて一口コクリと飲む。
それからカウンターにもたれた。
…明らかに暇つぶしで酒のつまみ扱いだな。
そうは思ったけれど、緊迫して追い詰められていた状況から脱する事が出来た恩の方が上回る。
一度息を吐き出してから、事の成り行きを簡単に説明した。
「…そっか。それであいつに襲われそうになったんだ。まあ…男としてはね。気持ちはわかる…かもね。」
「そ、そうですか…?」
「うん。手に入れられると思ったのに、土壇場でダメになったらね。カッとなるでしょ。単純な人なら。」
単純…確かに、あのボンボンはそうかも。
コクンとまたウィスキーを一口飲んだその人は、少し小首を傾げて穏やかに笑う。
「結婚…イヤなわけ?やっぱり。」
「そ、それは…。ただ、逃げ出してきた今、これからどうしようと途方にはくれています。冷静に考えて、やっぱり結婚すべき…かなって。今は。今なら激怒かもしれないけれど戻れるし。」
「それでいいの?」
「まあ、結婚に夢見る歳でもありませんから」
お父さんがあんな風に言ってくれたのは本当に嬉しかった。
お父さんとお母さんの子供に生まれてよかったって心底思った。
だからこそ、やっぱり助けたい、二人を。
もう一度着物を直して、帯を手の感覚で結び直す。
それから、田宮さんに会釈した。
「助けていただき、ありがとうございます。本当に恐かったから、助かりました。変なことに巻き込んでしまってすみませんでした。」
そのまま、「では」と踵を返そうとした瞬間。
「ちょっと待って?」
呼び止められ、そのまま手首を掴まれた。
「あ、あの…。」
驚いている私をよそに、田宮さんの綺麗な顔が歪み、そのブラウンがかった瞳が好戦的な光を放つ。
「…見つけた。」
“見つけた”…?
疑問符を頭に浮かべた途端、もっと田宮さんの体が近づいた。
「どうせ結婚するんだったら、俺と結婚しろよ。」
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