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「あ、あの…」
「何?」
タブレットで、結婚式場について調べ出した田宮さんの顔をお伺いしながら、恐る恐る話してみる。
「挙式は家族のみで…帰ってきて披露宴なり、パーティーをするだけというのは…。
それに、ドレスもそんなにたくさん着なくても…」
画面をスワイプしていた指が止まり、真顔で私のことを見る田宮さん。
「本当に申し訳ないのですが…私…その…そんなに豪華にしてしまうとお金が出せませんので…」
その眉間にシワが寄る。
…わかるけど。
そんな『世界の100人』に選ばれる位の人だもの。きちんと大々的に世間に結婚したとこを公表しなきゃならないんだろうから。
でも…申し訳ないけれど、無理…だな。
「すみません」と頭を少し下げたら、タブレットを静かいに置いた田宮さんはふうとため息をつく。同時に私の頭にポンとその掌を乗せた。
「…誰が金の心配をしろなんて言ったんだよ。」
え…?
その掌を乗せたまま、思わず上目遣いに田宮さんを見る。
「契約上とはいえ、正式な夫婦であることは間違いないだろ。俺の稼いだ金は、お前のものでもあるんだから。」
…………いや、いやいや。
頭を撫でられても、「なるほど、そうですよね♡」となるほど、私はウラ若き乙女ではありませんから。
そもそも、それこそ、契約上のみの夫婦なわけで、そんな私にお金をかけるなんてもったいない。
田宮さんが頑張ったからこそ稼いだお金なんだし。
「…田宮さん。」
「ん?」
「私、半分は出させてください。」
「いや、だからさ…」
「違うんです。」
「何が。」
田宮さんは本当にわかっていない。
お金が云々ではなくて、田宮さんがどれだけ私に凄いことをしているのかということを。
ホテルで出会って、最初は気まぐれだったと思うけれど、助けてくれて。
事情を聞いて、「うまい話だ」とは思ったのかもしれないけれど、借金を整理するため弁護士を紹介してくれて。
自分が女性に言い寄られるのが嫌だからという理由かもしれないけれど、結婚をすることで私にこうして安全と安心の空間を与えてくれている。
…まあ、整理すると五分五分じゃないかと言われそうだけれど。
田宮さん側の理由はともかく、私を救ってくれたのは間違いないから。
結婚式を挙げるなら、せめて半分くらいは、自分で稼いだお金で、田宮さんに嫁ぎたい。
感謝を込めて…きちんと精一杯綺麗になって。
「…“田宮凪斗”の妻として、頑張りたいんです。優秀な夫に少しでも近づける様に。」
田宮さんの煌めきの多いブラウンの瞳を真っ直ぐに見つめる。田宮さんも、私が大真面目だということをちゃんとわかってくれたのだと思う。不服そうに目を細めて、ため息をついた。
「…変な奴。普通さ、『え?!お金使って良いの?ラッキー』って思うんじゃいの?そこは。」
「思いませんよ。よく考えてください。この家だって田宮さん持ちなんですよ?それですら、私にとっては申し訳ないんです。」
「言っただろーが、そこは。俺の為だって。セキュリティがしっかりしてる所じゃないとダメなんだよ。」
「…はい。そこは納得しました。『世界の100人』に入るほどの方ですから。有人マンションにと考えるのは妥当だと思います。だからせめて、結婚式は半分出させてください。
いくら契約上の夫婦になるとはいえ、田宮さんが汗水流して稼いだお金を私がホイホイ使うわけにはいきません。」
「……。」
「は、半分…で申し訳ない…ですが。」
未だに何故か頭に掌が乗せられた状態で、懸命に話をしてみる。
田宮さんは、ジッと私を見てから、「…そっか。」と顔を歪めニッと笑った。
「…じゃあさ、その『田宮凪斗の妻になる覚悟』を見せて貰おうかな。」
「じゃ、じゃあ…」
「いや?やっぱり俺が全額払う。結婚式にまつわる費用全て。でも、条件を付けようぜ。」
条件…?
「結婚式当日に、俺がお前のドレス姿を見て『綺麗だ』と思えたら、俺が払う。けどもし、俺をがっかりさせる様な出来具合なら、美花が全額払う。」
ぜ、全額…?!
「そ、それは…」
「何だよ。お前の『田宮凪斗の妻になる』ための頑張りはその程度なわけ?」
「そ、そんなことありません!」
「じゃあ決まりだな。ブライダルエステとか、ヘアメイクとか…全部俺持ちではあるけど、自分で考えてやれよ。」
唇の両端をキュッと上げて、楽しげな表情。
「まあ…あの趣味の悪い七五三の着物の美花じゃ、俺を満足させるなんて到底難しそうだからね。別に無理しなくても良いけど。」
「あ、あれは…着たくて着たわけじゃ…」
「へー。じゃあ、自分で考えたら、さぞかし綺麗な花嫁さんになってくれるんだろうね。」
…絶対今、楽しんでいる。
だけど私にとっては真剣な話で。
「どうする?美花?この挑戦状受けます?」
「…もちろんです。受けて立つ。」
ムッと口を尖らせ少し睨みをきかせた私に、田宮さんは、ハハっと笑い、未だに私の頭に置いていた掌をポンポンと軽く動かした。
「…楽しみにしてるよ。」
絶対に、田宮さんが『綺麗だ』と思う花嫁になってみせるんだから。
…絶対に。
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「あ、あの…」
「何?」
タブレットで、結婚式場について調べ出した田宮さんの顔をお伺いしながら、恐る恐る話してみる。
「挙式は家族のみで…帰ってきて披露宴なり、パーティーをするだけというのは…。
それに、ドレスもそんなにたくさん着なくても…」
画面をスワイプしていた指が止まり、真顔で私のことを見る田宮さん。
「本当に申し訳ないのですが…私…その…そんなに豪華にしてしまうとお金が出せませんので…」
その眉間にシワが寄る。
…わかるけど。
そんな『世界の100人』に選ばれる位の人だもの。きちんと大々的に世間に結婚したとこを公表しなきゃならないんだろうから。
でも…申し訳ないけれど、無理…だな。
「すみません」と頭を少し下げたら、タブレットを静かいに置いた田宮さんはふうとため息をつく。同時に私の頭にポンとその掌を乗せた。
「…誰が金の心配をしろなんて言ったんだよ。」
え…?
その掌を乗せたまま、思わず上目遣いに田宮さんを見る。
「契約上とはいえ、正式な夫婦であることは間違いないだろ。俺の稼いだ金は、お前のものでもあるんだから。」
…………いや、いやいや。
頭を撫でられても、「なるほど、そうですよね♡」となるほど、私はウラ若き乙女ではありませんから。
そもそも、それこそ、契約上のみの夫婦なわけで、そんな私にお金をかけるなんてもったいない。
田宮さんが頑張ったからこそ稼いだお金なんだし。
「…田宮さん。」
「ん?」
「私、半分は出させてください。」
「いや、だからさ…」
「違うんです。」
「何が。」
田宮さんは本当にわかっていない。
お金が云々ではなくて、田宮さんがどれだけ私に凄いことをしているのかということを。
ホテルで出会って、最初は気まぐれだったと思うけれど、助けてくれて。
事情を聞いて、「うまい話だ」とは思ったのかもしれないけれど、借金を整理するため弁護士を紹介してくれて。
自分が女性に言い寄られるのが嫌だからという理由かもしれないけれど、結婚をすることで私にこうして安全と安心の空間を与えてくれている。
…まあ、整理すると五分五分じゃないかと言われそうだけれど。
田宮さん側の理由はともかく、私を救ってくれたのは間違いないから。
結婚式を挙げるなら、せめて半分くらいは、自分で稼いだお金で、田宮さんに嫁ぎたい。
感謝を込めて…きちんと精一杯綺麗になって。
「…“田宮凪斗”の妻として、頑張りたいんです。優秀な夫に少しでも近づける様に。」
田宮さんの煌めきの多いブラウンの瞳を真っ直ぐに見つめる。田宮さんも、私が大真面目だということをちゃんとわかってくれたのだと思う。不服そうに目を細めて、ため息をついた。
「…変な奴。普通さ、『え?!お金使って良いの?ラッキー』って思うんじゃいの?そこは。」
「思いませんよ。よく考えてください。この家だって田宮さん持ちなんですよ?それですら、私にとっては申し訳ないんです。」
「言っただろーが、そこは。俺の為だって。セキュリティがしっかりしてる所じゃないとダメなんだよ。」
「…はい。そこは納得しました。『世界の100人』に入るほどの方ですから。有人マンションにと考えるのは妥当だと思います。だからせめて、結婚式は半分出させてください。
いくら契約上の夫婦になるとはいえ、田宮さんが汗水流して稼いだお金を私がホイホイ使うわけにはいきません。」
「……。」
「は、半分…で申し訳ない…ですが。」
未だに何故か頭に掌が乗せられた状態で、懸命に話をしてみる。
田宮さんは、ジッと私を見てから、「…そっか。」と顔を歪めニッと笑った。
「…じゃあさ、その『田宮凪斗の妻になる覚悟』を見せて貰おうかな。」
「じゃ、じゃあ…」
「いや?やっぱり俺が全額払う。結婚式にまつわる費用全て。でも、条件を付けようぜ。」
条件…?
「結婚式当日に、俺がお前のドレス姿を見て『綺麗だ』と思えたら、俺が払う。けどもし、俺をがっかりさせる様な出来具合なら、美花が全額払う。」
ぜ、全額…?!
「そ、それは…」
「何だよ。お前の『田宮凪斗の妻になる』ための頑張りはその程度なわけ?」
「そ、そんなことありません!」
「じゃあ決まりだな。ブライダルエステとか、ヘアメイクとか…全部俺持ちではあるけど、自分で考えてやれよ。」
唇の両端をキュッと上げて、楽しげな表情。
「まあ…あの趣味の悪い七五三の着物の美花じゃ、俺を満足させるなんて到底難しそうだからね。別に無理しなくても良いけど。」
「あ、あれは…着たくて着たわけじゃ…」
「へー。じゃあ、自分で考えたら、さぞかし綺麗な花嫁さんになってくれるんだろうね。」
…絶対今、楽しんでいる。
だけど私にとっては真剣な話で。
「どうする?美花?この挑戦状受けます?」
「…もちろんです。受けて立つ。」
ムッと口を尖らせ少し睨みをきかせた私に、田宮さんは、ハハっと笑い、未だに私の頭に置いていた掌をポンポンと軽く動かした。
「…楽しみにしてるよ。」
絶対に、田宮さんが『綺麗だ』と思う花嫁になってみせるんだから。
…絶対に。
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