改めてそう誓い新居へと足を運ぶ。ベリーヒルズビレッジ内の低層レジデンス。ベリーヒルズビレッジそのものが、ライフスタイルやセキュリティにおいて、ハイセンスクオリティを維持するといったテーマで作られていて、この低層レジデンスは数億はくだらないという物件…。
ほんの数日前は自分がここに住むなんて思っても見なかった、正に別世界というやつだ。


一階のエントランスを入ると、コンシェルジュと呼ばれる人達が「お帰りなさいませ」と丁寧にそして柔らかい所作で会釈をした。

大理石の床を歩き、さながら高級ホテルの様なラウンジを抜けると、銀色のエレベーターが4機並ぶ、エレベーターホールとなっている。

コンシェルジュに促され、エレベーターへと乗り込み行った先は、4階のお部屋だった。


「田宮さん、本当にありがとうございます。」


20畳はあるだろうかというリビングに入り二人きりになった所で、改めてお礼を述べた。

一足先に入り、大きく真っ白なソファに身を沈めた田宮さんが、不思議そうに小首をかしげる。


「だからさ…俺は別に大した事はしてないと思うけど。何で美花はそんなにありがとうって言うわけ?」


そう言って体を起こして私の前まで歩いてくると、左手で私の髪を少し掬う。


「…俺の方がよっぽど感謝しないと。」


ズレてるんだよな…感覚が。
ここまでだと、本当に聴きたくなる。というか、もうこの際聞いてしまおう。


「そんなに…大変なんですか?その…女性関係。」
「そりゃね。ここまで有名になっちゃうと、今のご時世、何を言われて拡散されるかわかんないから。無下には出来ないわけ。」


ここまで…有名、か。
そういや、田宮さんの年齢に驚き、それからもバタバタと色々ありすぎて、田宮さんがウェブデザイナーであるということ以外、一体何者なのかをしっかりと聞けていなかった。


「あの…?」
「ん?」
「お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「うん。何でもどうぞ?大事な奥さんの質問なら何でも答えますよ?」
「えっと…田宮さんて一体何者…」

…一瞬、田宮さんの動きが止まり、真顔で私を見る。

「…ちょっと待った。美花、俺が何者なのかわかってないの?」
「す、すみません…失礼とは思いますが…その…」


田宮さんが私の反応にあんぐりと口を開け驚いている。
新鮮かも、今までどちらかというと余裕綽々な感じで落ち着いている表情ばかりを見ていたから。

それはそれで、コミカルで可愛い表情だと失礼な事を思っている私を他所に、田宮さんは苦笑い。


「俺、これでも『世界の100人』に選ばれた日本人として、結構雑誌に出てるんだけど…。」


世界の、100人?!

あの経済雑誌の最高峰のニューヨーカータイムで年に一回発表されてるあれ?!


「俺もまだまだ頑張らないとって事だね。」
「あああの、すみません…その…失礼を…」
「や、失礼よりさ。俺の素性全く知らないのに、結婚しようって決断した方が凄くない?」
「そ、そこは…」
「そこは?」


…確かにボンボンよりはマシだって思ったけれど、それだけじゃない。
田宮さんは、私の話をしっかり聞いてくれて、そして、提案してくれた。

少なからず、私はあの時浮上出来たから。


「…信じられたというか。」
「なるほどね。美花は人を信じやすい。覚えとくわ。」


楽しげにクッと含み笑いをして私から離れると、キッチンにあったワインセラーから一本ワインを持って私の隣にまた戻ってきた。



「とりあえず、今日からここに二人で住むんだし、乾杯します?」
「はい…」
「結婚式をどうするかも決めないと。」
「…挙げるんですか?」
「まあね。既成事実を作んないと世間は信用しないでしょ。」


なるほど。確かに。


「どこの式場がいいか、よくリサーチしないとな。
とりあえず、結婚式の場所はパリか、ニューヨークか…ああ、でもハワイとか南国もアリだよな。近しい人は航空券付きで招待して。その後、出入り自由の報告パーティーを日本でやるか。ロイヤルホテルの最上階の広間貸切でいいな、そっちは。
ドレスは…3枚がいい?それとも5枚位は用意する?」

目の前のカウンターにグラスを2つおいて、ワインを注ぐ姿はまるで高級レストランのソムリエの様にかっこいい…とか、見惚れている場合じゃ無い。

ちょっと待って。
何、そのセレブな結婚式の道筋。
外国であげる…のはちょっと良いなって思うけど。
帰ってきて報告するだけのパーティーを日本の主要要人や大御所芸能人が利用する様な場所を貸し切ってやるって事?
私…半額だとしても出せませんけど。