帰り際に何か言うべき?
こんなとき、気の利いた言葉が出てこない。


私が陽キャなら、ここまで悩んでないよね……。


「雨音。今日は、俺のワガママに付き合ってくれてありがとう。凄く楽しかったよ」


「どういたしまして」


ワガママ……写真を見せられて、渋々付き合わされたゲーセンデート。


最初は早く帰りたいって思ってた。でも、最終的には時間が気にならなかった。


楽しい時間があっという間に過ぎるって、こういうのをいうのかな?


「そういえば、もうすぐ期末テストも始まるね。……俺に勝てるといいね」


「私、負けないから。次こそは絶対に勝つ!」


挑発されると、すぐに乗っかってしまう。


片桐くんは私が追い抜くことは不可能、といった余裕な表情を見せる。


「俺が勉強を見てあげようか?例えば……雨音が苦手な数学とか」


「なんで、それを知って……」


「成績表を見てたらわかるでしょ?それに教科ごとに、好成績な人はテスト返却のときに先生に名前を呼ばれるから」


「うっ」


そう、私は数学が苦手。それ以外は人並み以上に点数は取れている。


それが足を引っ張っているせいで、片桐くんには勝てない。なにせ、片桐くんは数学が大の得意だから。


だけど、意外。ずっと1位だから、成績表なんて興味無いとばかり。


「数学を教えてくれるの?」


片桐くんは私より頭が良い。
プライドや恥が邪魔するけれど、ここは一旦そういう感情を捨てなきゃ。


……ライバルに教えを乞うなんて、変な話。
だけど今回ばかりは、とやかく言ってられない。