「そういうのは彼女にやってあげたほうが……」


「だから、今の彼女は雨音だよ。って、どうしたの?」


「え?」


片桐くんが不思議そうに私の顔を見ていた。


ハッと気がつくと、手には何やら雫らしきものが……って、これは涙?


「安心したら気が抜けたんだね。さっきは怖い思いをさせてごめん」


「片桐くんが謝ることなんてないから」


そっか、私は怖かったんだ。片桐くんに言われて、やっと気付いた。


言われてみれば、複数の女子に囲まれて、ひどい言葉をかけられるのは今まで体験したことなかったし、それが年上だったら、なおさら恐怖は増すわけで。


「今回のことは俺のせいだから。今後は、あんな危険な目に遭わせないように俺が雨音を守るから」


そういって私の頭を撫でる。優しい触り方。まるで壊れものを扱うみたい。


どうしてだろう。撫でられる度に怖かった気持ちが嘘みたいに消えていくのは。


「ありがとう」


朝はすぐに出てこなかった言葉。だけど、今は素直に感謝の気持ちを片桐くんに伝えることができた。


「どういたしまして。でも、忘れてない?」


「な、何を?」


一体なんのこと?と、私は首を傾げた。


「俺は雨音の弱みを握ってるんだよ」


黒い笑みをした片桐くん。私を脅してきたときと同じ顔をしている。


「なっ……!」


「そんなに警戒しないで。フッ……あははっ。雨音は本当に退屈しないね。今まで付き合ってきた女の子とは、また違う魅力があって、こういうのも悪くないかも」


片桐くんがお腹を抱えて笑ってる。なんだか楽しそう。


私のことをからかっていて腹が立つはずなのに、今は片桐くんの笑顔を見て不覚にもカッコいいと思ってしまった。