それもそのはず。神楽には、片桐くんのことはチャラ男としか言ってないわけだし。実は、初恋の幼なじみだったんだ!とも話していない。


それなのに、手だけはしっかりと繋いでるし……。


「神楽くん、おはよう。って、そんなに驚くことでもないでしょ」


「片桐……。悠長に挨拶する前に、まず説明が先だろ」


片桐くんは何のこと?的な体で変わらず笑顔を崩さず、神楽に挨拶を交わす。


神楽はその真逆で、キレる5秒前って感じ。2人の温度差があまりにも違いすぎる。


おそらく私が脅されてると思ってる。だから、神楽は怒ってるんだ。


……まぁ、半分くらいは神楽の想像で合ってるんだけど。


「片桐くん。その……神楽は」


「あれ?雨音、どうしたの。昨日は昴って呼んでくれてたのに」


「へ?」


2人の喧嘩を止めに入ろうとするも、片桐くんから思わぬ発言が。


「それは本当なのか、雨音」


「いや、私はそんな……!」


誤解、誤解だってば。私は片桐くんのことを下の名前で呼んだことなんてないし!


片桐くんも、なにもこんな大勢の前でそんなこと言わなくても……。


神楽と2人きりなら、すぐにでも誤解だって言える。だけど、こんなに注目されていたら、言葉が出てこない。


……こんな時に限って、陰キャを発動させてどうするの私。


というか、ここまできたら、陰キャとか陽キャとか関係ない。これはいってしまえば、私の性格。


こういうとき、自分の言いたいことをすぐにいえる片桐くんが少し羨ましい。