「少しくらい束縛してもいいのに。俺はむしろ、雨音が他の男子と会話してるの見るとヤキモチ妬くよ」


「なっ……」


またペースを崩すようなセリフばっかり。


計算されつくした笑顔とトーク。


私は、つい惑わされそうになった。


「雨音の家を出たときから、気になってたんだけど……」


「なに?」


片桐くんは私の方をジッと見つめてくる。


もしかして、すごい寝癖がついてるとか?


「今日は髪おろしてきたんだね。なんだか新鮮で可愛い」


「かわっ……私よりも可愛い女の子はたくさんいるし」


素直になれない私は、フイっとあからさまに目をそらす。


可愛いって言われ慣れてないせいで、変な気持ちになる。


胸の奥のほうがギューってなにかに掴まれたみたいに。


って、ダメダメ。
片桐くんは、私の秘密を握ってるんだから。


それをバラされたくなくて、私は彼女のフリをしているの。


危うく、片桐くんの言葉を鵜呑みにするところだった。


可愛いなんて、思ってなくても言えるし。例えば、社交辞令とかお世辞とか、そういう類の。


そりゃあ本物の恋人同士なら、今の言葉だって本音かもしれない。


だけど、私たちはあくまでもフリ。
それを忘れちゃいけない。