「私、私は……彼女のフリを続けたい」


「……そっか。ありがとう、雨音。じゃあ、また明日からもよろしくね」


悲しそうな顔。


片桐くんは私の言いたいことを察したのか、その場から立ち去った。


今にも消えそうな、儚い表情が私の脳裏から離れない。


言いたいことが山ほどあった。伝えたいことも、聞きたいこともたくさん。


引き止めて、何かをいうことも出来たはず。 けれど、その言葉を発することは出来なかった。


精一杯、考えた結果、口から出た言葉がソレだった。


彼女のフリ。


それが、今の私と片桐くんを繋げる唯一の関係。


今の言葉で、片桐くんをどれだけ傷つけてしまっただろうか。


きっと、私たちは再会するのが遅すぎたんだ。


けれど、さっきからドキドキが止まらないのはなんでなの?


私の鼓動のスピードは、うるさいくらいになっていた。


(私は、まだ……)


いろんなことをグルグル考えていても、結局この気持ちは止められない。


抱きしめられたときに、微かに香る懐かしく、甘い匂いも、大きくなったけど優しい声色は、私の耳を嫌というほど、くすぐる。


それに、私が彼女の“フリ”がいいって言ったら、それをすんなり受け入れてくれる。


そんな優しい片桐くんは、昔と何も変わっていない。


想いが、気持ちが、感情が溢れてくる。


小さいころに感じていた、懐かしいモノ。


私はどうしようもないくらい、片桐くんのことが……好き。