「遠くに行きたいなあ」
各々友人と集まり、賑やかに談笑して昼を食べる。例に漏れず私も彼女と机をくっつけて菓子パンをかじっていた。
「遠く?」
「そ、旅行とか」
お弁当をつつく箸を置いて、勢いよく椅子を引いて両手を広げる。私はSが後ろに転げ落ちないか心配で手を伸ばすが、杞憂で済んだ。
「みんなで海とか入って〜、なんも考えずにぱぁって遊ぶの〜」
今度は椅子に手をつき、若干身を乗り出して
「絶対楽しい」
と言い、にんまりと笑ってみせる。
今朝から時々感じていたその笑顔の違和に触れるべきだろうか逡巡していたが今の「遠くに行きたい」発言とわざとらしい笑みのおかげで悩みが吹っ飛んだ。
「なんかあった?」
私は先程パンと一緒に買った紙パックのカフェオレのストローを咥え、頬杖をつく。彼女は眉根を寄せて不機嫌そうに顔を歪めた。
「なんでわかるの」
「顔、書いてあるみたいなもんだよ」
そう言って私は自分の額を2回ほど叩いてみせた。Sは無駄に額を拭う。
「彼氏と喧嘩した〜」
両手を前に突き出し机にもたれる。そして私を視線だけで見上げた。
「もう終わりかな、私たち」
「そもそもなんで喧嘩したの?」
惚気に発展しそうで本当は話したくない話題だが、話を聞いてくれと言わんばかりの目を逸らすことは出来ないから仕方がない。乗ってあげることにした。
「……浮気してるかも」
はーっと溜息を吐いて、項垂れる。Sの、いつもは肩を掠めている綺麗に揃えられた毛先が机の上にだらしなく落ちた。私は嘆息を吐いて、頭に軽くチョップを落とした。
「嘘つけ、Nに限って浮気なんか」
「……いや、でも、ううう……」
Sの彼氏のNは如何にも誠実、と言った感じで、あのNに、浮気、ほど合致しない単語があるのかと思う。
――それに。
「それに、こんな高級な腕時計くれる人が浮気すると思う?」
左手首の白い腕時計を指さす。恐らくブランド物だ。シンプルだけど華がある、綺麗なデザインだ。
そして何より、Sに合っている。笑顔が素敵で、溌剌としているけれど、少し控えめで一歩引いている。そんな彼女にぴったりだな、と勝手に思っているし、それを選べるのはSが好きであるからだとも思う。
「……どうだろ、もうわかんない」
いつの間に起き上がったのか、お弁当のおかずを口へと運んでいる。唇をつん、と尖らせ、やっぱりいじけた顔をしていた。
「まあ、早く仲直りしなよ」
残り一口大のパンを口に詰め込み、包装を畳んでしまう。
「……うん、別れたくないし」
結局最後は惚気に落ち着くあたり、心配は要らないようだ。肩を竦めて視線を逸らす。すると待たせている事実に気がついたのか、急いでお弁当を食べ始めた。
どうでもいいことを喋るだけの、今。
各々友人と集まり、賑やかに談笑して昼を食べる。例に漏れず私も彼女と机をくっつけて菓子パンをかじっていた。
「遠く?」
「そ、旅行とか」
お弁当をつつく箸を置いて、勢いよく椅子を引いて両手を広げる。私はSが後ろに転げ落ちないか心配で手を伸ばすが、杞憂で済んだ。
「みんなで海とか入って〜、なんも考えずにぱぁって遊ぶの〜」
今度は椅子に手をつき、若干身を乗り出して
「絶対楽しい」
と言い、にんまりと笑ってみせる。
今朝から時々感じていたその笑顔の違和に触れるべきだろうか逡巡していたが今の「遠くに行きたい」発言とわざとらしい笑みのおかげで悩みが吹っ飛んだ。
「なんかあった?」
私は先程パンと一緒に買った紙パックのカフェオレのストローを咥え、頬杖をつく。彼女は眉根を寄せて不機嫌そうに顔を歪めた。
「なんでわかるの」
「顔、書いてあるみたいなもんだよ」
そう言って私は自分の額を2回ほど叩いてみせた。Sは無駄に額を拭う。
「彼氏と喧嘩した〜」
両手を前に突き出し机にもたれる。そして私を視線だけで見上げた。
「もう終わりかな、私たち」
「そもそもなんで喧嘩したの?」
惚気に発展しそうで本当は話したくない話題だが、話を聞いてくれと言わんばかりの目を逸らすことは出来ないから仕方がない。乗ってあげることにした。
「……浮気してるかも」
はーっと溜息を吐いて、項垂れる。Sの、いつもは肩を掠めている綺麗に揃えられた毛先が机の上にだらしなく落ちた。私は嘆息を吐いて、頭に軽くチョップを落とした。
「嘘つけ、Nに限って浮気なんか」
「……いや、でも、ううう……」
Sの彼氏のNは如何にも誠実、と言った感じで、あのNに、浮気、ほど合致しない単語があるのかと思う。
――それに。
「それに、こんな高級な腕時計くれる人が浮気すると思う?」
左手首の白い腕時計を指さす。恐らくブランド物だ。シンプルだけど華がある、綺麗なデザインだ。
そして何より、Sに合っている。笑顔が素敵で、溌剌としているけれど、少し控えめで一歩引いている。そんな彼女にぴったりだな、と勝手に思っているし、それを選べるのはSが好きであるからだとも思う。
「……どうだろ、もうわかんない」
いつの間に起き上がったのか、お弁当のおかずを口へと運んでいる。唇をつん、と尖らせ、やっぱりいじけた顔をしていた。
「まあ、早く仲直りしなよ」
残り一口大のパンを口に詰め込み、包装を畳んでしまう。
「……うん、別れたくないし」
結局最後は惚気に落ち着くあたり、心配は要らないようだ。肩を竦めて視線を逸らす。すると待たせている事実に気がついたのか、急いでお弁当を食べ始めた。
どうでもいいことを喋るだけの、今。