「L、L」

名前を呼ばれて目を覚ますと、彼女が私を見下ろしていた。

「移動教室」

どうやら授業中に眠ってしまったみたいだ。机に突っ伏していた所為で頬や肘が痛い。その痛みに耐えながら身体を起こした。既に教室には私と彼女しかいない。

「あぁ、ごめん」

と詫びて、支度を始める。彼女が持っている教科書と同じものを机の中から探し、ついでにノートも取り出した。

「おまたせ、行こ」

扉のそばで待っているSの横に駆け寄り、教室を出て、長い廊下を歩く。私が左、彼女が右に並んで立つのが定位置で最近は逆になると気持ちが悪い。そんなくらい一緒に歩いている。

「……さっき」

「ん?」

「寝てるとき、ヨダレ垂らしてたよ」

意味もなく手で口を覆った。彼女は特に表情を変えることも無く前を向いている。

「……まじ?」

「うそ」

「え」

「うそだよ」

私の動揺にSは顔を綻ばせた。口元に手を当て、大きく口を開けるのを躊躇うような、控えめな笑顔。

そのふわっとした笑顔が私の心を貫いた。真綿で首を絞められている気分だ。

「ちょっと、なんで嘘吐いたの」

「ふふ、揶揄いたくなっちゃって」

ごめんね、と小さく付け足す。軽く睨みつけるとはは、とまた笑った。その声を聞いて自然とこちらも笑みが零れる。

「ちなみに白目剥いてたのは本当」

「え!?」

「うそ」

くだらない話でも笑顔になれる、今。