とりあえずは有栖怜か否かを確認したい。


似ている。あまりにも似すぎている。

なんと聞き出そうか一瞬迷ったが、あまり深く考えても考えるだけ無駄と判断し、直球でいくことにした。


「あの、名前教えてもらえませんか?」
「はァ? まさかお前、オレ様のこと知らねーのに助けたんじゃねーだろーな」
「いや、なんも知りませんけど」
「……オレ様達もまだまだってことか。いいぜ。教えてやるよオレ様の名前」


‥‥‥名前を知りたいだけなのに、どうしてここまで傲慢になられなきゃいけないのだろうか。


と、いけない、平常心、平常心。


「有栖怜だ。アイドルやってるから、覚えとけよ」


驚愕と案の定、背反した気持ちに襲われ、表情筋がどう動くべきか戸惑っている。


有栖怜じゃん。
本人じゃん。

え、むしろ激似を利用したそういう新手の詐欺?
そっくり詐欺とか? それでアイドルの名前を騙って、金銭を巻き上げ、ご飯を端から平らげるとか。

だとしたら私、もう引っかかってる!?


「お前は? 名前教えろよ」


心の中で頭を抱える私など気にせず彼__有栖くん? は続ける。


「時森沙良です」
「歳は?」
「18。今年で19」
「お前タメかよ。チビだしずっと敬語だしガキだと思ってたわ。あとメシまずいし」
「……それはただの特性」


つくづく失礼な人だった。

料理下手なのは仕方ない。だってまだ一人暮らし始めたばかりだもの。
私の腕前が上がるのはまだまだこれからなのだから。


「あと、敬語やめろ。硬っ苦しいのは嫌いなんだよ」
「ええ……わかった」


でた、横暴。

まだ2・3分しか話してないけど、この人のことが少しづつ分かってきた。


暴君気質。


「沙良」
「なんでしょう」


唐突な呼び捨てに面食らう。


「世話んなったな。感謝してやるぜ」
「はあ、どうも」


今更すぎる謝辞に戸惑いを隠せない。
完全に相手のペースに乗せられている。


「普段はどこに住んでるの?」
「いや、家ねーけど」


‥‥‥住所不定!?
アイドルなのに!?


「じゃあ昨日みたいなとこで寝てたり……?」
「事務所の応接間で寝てる」
「え、アイドルだよね?」
「あ? そう言ってんだろ」


そんなこと言われても、事務所の応接間で寝ているアイドルなんて聞いたことがない。
私の知識の乏しさだろうか?

いやいや、そんなわけないだろう。
絶対あり得ない。普通にテレビに出ているアイドルが応接間で寝泊まりなんて。


「とりあえず、仕事行かねーとだから。じゃあな」
「え、ええ?」


状況はよくわからないけど、有栖くんははご飯を即刻平らげてうちを出ていった。


嵐のような__いや、それこそ昨日のゲリラ豪雨のような男だった。

彼の痕跡を辿りながら片付けをしていく。


「変な人だったなあ」


一人称俺様って。

変というか、危険。


それでも彼のことが気になって、動画サイトで彼の所属ユニットの名前を検索する。


「……かっこよ」


ライブ映像のダイジェスト。

アクロバティックな彼らのパフォーマンスに圧倒されて、気がつけばネットでDVDを購入していた。


‥‥‥全く、ミーハーな自分である。