顔が赤くなる私とは裏腹に、彼はドリンクバーから持ってきたお茶を平然と飲む。そして声のトーンを落として話し始めた。

「……俺は、ずっとアイドルをしていることを誰にも言ってこなかった」
「待って。それ、既出の情報?」
「そんなわけないだろう」
「オタクに話していいの!? 私あなたのファンなんだけど!」
「お前は――」

とくべつ。

そう唇が動いた気がした。しかし多分気のせいだ。
だってそんなわけがないから。

「いいから!
俺には怜とアキさんしかいなかった。だから学校にも友達なんて、作らなかった」
「……うん」
「学校外にはいたぞ? 言っておくけど」
「うんうん。ダンススクールね」
「信じてないだろ」
「そんなことないよ」

でも友だちは一桁なんだよね……という心の声は、私の優しさで言わないでおく。

「作らなかった、より、誰も寄ってこなかった。お前は変だよな。怜に近寄るどころか、一緒に住んでさ」
「住みたかったわけじゃないよ! あの時はたまたま拾って」
「普通拾わないぞ」
「ええ」

まあそうですよね。私もそれは思うけど。
空になったグラスがカラカラと音を立てた。私をちょっと笑うように。

「でもまあ、お前と知り合えてよかったよ」
「なに急にどうしたの。気持ち悪い」
「そこまで言うな。推しだぞ」
「なんで詩壇くんも怜も自分が推しであることを盾にするの? 私に勝機を頂戴よ」
「俺もこういう、青春の様式美みたいなのがしたかったのかもしれないってことだ。……これ、やる」

汚れたお皿だらけの机にコトンと置かれたのは、10センチほどの正方形の小さな包みだった。レースのついたリボンで丁寧に包装が施されている。

「あ、ありがとう。開けていい?」
「ああ。あの、あれだ。気に入らなかったら悪いから、ちゃんと引き取る」

視線を逸らし明らかな予防線を張る彼の様子が面白くって、わざと大きな声で「なんだろ~楽しみ~」と言ったら睨まれた。怖い。

「……え」

意外や意外。箱に刻まれたブランド名を見て絶句した。