メニューを開く。今日は仮にも私の誕生日前祝いの豪遊だ。少し頼みすぎるぐらいでもちょうどいいはず。
それに詩壇くんが意外と食べるということは、この前の怜のパーティーで確認済みだ。

「遠慮するなよ。今日は俺が払うから」
「え、悪いよ。せめて割り勘しよ」
「俺が誘ったんだから当たり前だ」

頑なに譲らないので根負けする。その代わり、ものすごい量を頼んでやった。

「こんなに食べ切れるか……?」
「怜はこれぐらい食べられると思うけど」
「まあもちろん俺もこれぐらいなら余裕だが」

……詩壇くん、チョロすぎだよ。

いただきますの挨拶をして、最初は焼き立てのピザを食べる。
うん、美味しい。

「どう?」
「普通に美味いな。値段の割に」
「そうでしょう。ここは本当にお財布に優しいんですよ」

その後も次々と運ばれてくるドリアにパスタ、チキン等々を2:1で分け合う。それでもデザートが来る前に、私のお腹は限界を迎えた。

「もう、無理」
「自分の食べられる量ぐらい計算しろ」
「ごもっともです……」

運ばれてきたジェラートはなんとか完食したけれど、ティラミスは泣く泣く諦める。
私がスススと差し出したお皿を見た詩壇くんはあきれ顔で、でもどこか楽しげに見えなくもない。
何も言わず、彼はティラミスを口に運んだ。

「美味しい?」
「悪くはない」
「こういうときは美味しいって言っておけばいいんだよ」

ふたりで過ごす時間は全然苦ではなくて、少し会話が途切れても気まずさは感じない。
曲がりなりにももう半年以上はずっと関わってきたから、結構仲良くなれたのかも。

「来年からはさー、卒論のこととか考えなきゃいけないのかな」
「ああ、そうだな」

勉強の話とか、大学の教授の話、昨日のクイズ番組、詩壇くんの話。
他愛のない会話が妙に心地いい。

「……これも青春か」
「激安レストラン豪遊が青春でいいの?」
「いいだろ。こんなところで誰か過ごしたのは初めてなんだから」

確かに、前のレストランではランチを食べてすぐに解散したし。
詩壇くん、友達いないみたいだし。

「今失礼なこと考えたな」
「考えてないよ」
「昨日のテレビ見ながら『兎束壇絶対高校時代のエピソードないじゃん』って呟いたの知ってるから」
「なんで知ってるの!?鍵かけたんだけど!」
「確かにないが、失礼だぞ」
「本人に見せたくないツイートだから鍵かけてんのよ! 内側に入ってくるな!」

この人のネトスト癖、今すぐどうにかしてほしい。
当然のようにファンアカウントが本人たちにバレてるのはなんで? 移行しようかな。