「どういうこと?」
「なんでもない!仕事以外のことでってことだ!」
そうは言うけれど、それはきっと、兎束壇としてじゃなくて、手塚詩壇として祝いたいってことだよね。
この前怜の誕生日にソロを歌ってくれたような、そういうことではなくて。
私のこと、本当に友達だって思ってくれてるんだ。
思わず笑みが零れる。
「な、なに笑ってる」
「手塚くんのこと、私は大切な友達だって思ってるけど、思い上がり?」
「なっ……」
少しだけ顔を赤くして口をパクパクさせる様子は普段の姿と乖離していて、かわいげすらある。
「じゃあさ! 今度大学の帰りに激安レストランで豪遊しよ! 大学生らしいし、楽しそうでしょ。
みんなもまた呼んで……いや、さすがにニューアレがそろってたらまずいか」
「ふたりで」
勝手に盛り上がりだした私を強い声圧が引き留める。
「ふたりで、行こう」
「あ……うん。そうだね」
目を見られない。
慣れない甘酸っぱい空気に包まれている気がして、私はつい黙り込んでしまう。
手塚くんも耐えられなかったのか、眼鏡を直しつつ、おもむろに立ち上がった。
「じゃ、そろそろ移動する。……沙良」
「え、」
「友達、なんだろ」
「う、うん」
「また」
黒いトートバッグにパソコンを詰め歩き出す手塚くん。後ろ姿に、思わず言葉を投げた。
「詩壇くん!楽しみにしてるから!」
一瞬の驚きの表情はすぐに弛緩した。
ああ、と今度こそ去っていく広い背。
詩壇くん。
ステージ上の完璧な姿とは少し違う。
真面目なのは変わらないけれど、人付き合いは不器用。
揺れた心は、きっと推し補正。