ラッピングを豪快に破るとしっかりした箱が出てくる。


『わ、可愛いマグカップ!……え』


猫が描かれている、私好みのかわいらしいカップ。しかし、その横には、同じサイズの、ふてくされた猫が描かれたマグがすっぽりと収まっていた。

明らかなペアマグカップ。


ペアマグカップといえば、その……同居している恋人同士が使う、アレでは?

いや、友人同士でも使うのかもしれない。

しかし少なくとも、私たちの家に、こんな、こんなかわいらしいペアマグカップがあることは、違和感というか、こそばゆかった。


『れ、怜、これ、なにかわかってる……?』


怜のことだ、きっと家に自分のものがないのが許せなかったとか、そんな理由でこれを買ったのかもしれない。


『……なんだよ。文句あんのかよ。オレ様の、勝手に使うんじゃねーぞ』


コーヒー飲むからそれかせ、と粉末のスティックを取り出した怜。キッチンに行ったのはそういうことか。

結局どういう意図かはわからなかったけど、デザインも気に入ったし、まあいっか。


『嬉しい、ありがと!』
『ん。あ、あと、誰にも使わせんなよ。……俺のだからな』
『ん? うん。誰も来ないよ』
『どーだか』


――というのが、このカップにまつわる経緯。

思えばこの家初めての怜のための食器だった。

怜がここに住んでいることの証拠のようで。怜がここに帰ってくるという無言の宣言のようで。
私は嬉しかった。