「今はまだ怜も詩壇もなにも知らないんだ。でも君には伝えておきたくて。いついなくなっても、後悔してほしくないからさ」
「それはとても、ありがたいです」
つまり、彼らが私の手の届かないところへ行ってしまうのは、いつかわからないってことか。
それならいっそ、今すぐいなくなってほしかった。
いつ来るかわからない別れに恐怖しながら彼らと関わり続けるなんて。
「茶川さん」
「なんだい?」
「私にそのことを伝えたって、絶対に言わないでくださいね。彼が私のもとにこれなくなっても、私は絶対ライブに行くし、CDだってDVDだって買います。
この関係がなくなったところで、私はみなさんを嫌わないし、変わらないし、ずっと応援したいので」
気を遣わせたくないという気持ちだけじゃない。
彼らと関わることは私の日常のちょっとしたバグのようなものだけど、彼らを推すことは生きがいだし、それまでも失うわけにはいかない。
毎日ご飯を食べるかどうかで迷わないのと同じで、彼らを応援するというのはもはや悩むまでもない当然の行為だから。
茶川さんは視線を落として言う。
「君は、いい子なんだね」
「どこがですか。推しと繋がって同居している、ファンの敵の嫌な奴ですよ」
「本当、その通りだ」
硬い床で気持ちよさそうに眠る二人を見た。
いつか、は必ず来る。それがわかっただけでいい。もう自分の思い過ごしかもしれないと、不安を消すようなことはしなくていいんだ。
手塚くん、ごめん。
きっと来年も本人不在の誕生日会だ。
怜、ごめん。君に出会えた奇跡は忘れたくない。君の心の隅に、私の存在があったらと願ってしまう。
私はつくづく嫌な女だ。
サバサバした女に見せかけて、本当はこんなにもわがままで粘着質なんだから。