「怜はね。本当は、自分はアイドルなんてやりたくなかったと思う。俺のためだった。詩壇もね。二人とも優しすぎるんだ。
二人とも自分の身を犠牲にしてまで、俺に付き合ってくれているんだよ」
「そんな、」


否定したかった。
ステージ上の二人を、けなされた気がして。
それ以上に、二人の茶川さんへの想いを、彼自身が拒否しているように感じたから。


「私は、三人のことをよく知りません。公式の情報――ダンススクールで知り合った幼馴染だってことしか。
でも二人が茶川さんのことを好きなのはただのファンでもわかります。今の怜と手塚くんは、ちゃんと自分の意志で、アイドルである自分を選んでいると思います」


だから、茶川さんがそんなに背負う必要はないんじゃないですか、
そう言ったところでハッと我に返った。


「すすすすみません! 偉そうに! 出過ぎた真似を!」
「ふふふ、いいんだよ。時森さんの言う通りだ。二人とももう、俺が思うほど子供じゃないんだよね。
でも今日は安心したな。あいつらはもう、自分がアイドルである意味をちゃんと見つけてる。俺もしっかりしなきゃね」
「茶川さんはもう十分ちゃんとしていますよ。なんせあの二人をまとめてるんですから……」


今日は散々だった。
酔っていなくても二人ともつっかかってばかりなのだから、お酒の勢いがあったらこうなることはわかりきっているのに。

手塚くんの絡み酒は意外だったな。
思い出すだけで疲れる。

卓上を片付け始めた私がどんな顔をしていたかわからないが、茶川さんはまた笑った。


「ところで時森さん的には、怜と詩壇、どっちが本命なの?」
「えっ、どっちがってなんですか? 私は二人とも好きですし、もちろん茶川さんのことだって同じくらい推してますよ」
「もう、そういうことじゃないよ。乙女の恋心的にってこと」
「あっ、茶川さん実は酔ってますね!?」
「酔ってない酔ってない、俺は親父譲りの辛党だもん。……でもね」

それまでの笑みは消えた。私を見ない瞳はどこか憂いを帯びていて、その表情に私は思わず息を飲む。


続きの言葉は、なんとなくわかった。