メインディッシュを一通り食べ終え、お皿の片付けを始める。
空になったお皿を手元に寄せながら、成人男性が食べる量のすさまじさに驚いた。
「今日は、お前と二人がよかったのに……」
「なんか言った? はい、お皿持って行って」
「いつも通りでよかったんだっての」
顔も耳もほんのり赤く染まっている。足もふらついていた。
方向転換した体が大きく横に揺れた。慌てて体を抱き止めると、シャワー上がりのシャボンがふわりと香る。
「ちょ、ちょっと、気をつけてよ」
「なんだよ、案外積極的だな」
「顔近づけるな酒臭い!!」
どんだけ飲むの楽しいの、二十歳になったからって浮かれすぎだよ。
お小言を言おうと思えば止まらなかったけれど、こんな日だし我慢。
すぐそこにはニューアレが勢揃いだし。
「沙良、ありがとな」
ん、と思わず息を飲む。
普段名前なんてめったに呼ばないくせに、今日の怜はなんだか変だ。酔っているだけだけれど。
「よし、オレ様は決めたぜ! ファンを幸せにするし、沙良はその次に幸せにしてやる!」
「お前には無理だ。時森の担当は俺だぞ」
「あ!? んなわけねーだろ! 自惚れんな!」
「まあまあ二人とも落ち着いてよ、夜も遅いし」
テレビと変わらない三人のやり取りを遠目に安心する。
ありのままのこの人達が好きだ。
変なめぐりあわせでファンと芸能人の関係を飛び越えてしまったけれど、いい出会いだった。
この三人に出会えてよかった。
きっと私は怜が同居人ということを差し引いてもこの人たちを好きでいられる。
推すことは無償の愛みたいなものだから。勝手にこっちがお金をかけるだけで。
「時森、そこでなにをしているんだ。早く飲むぞ」
「飲むぞって、私未成年だから。はい、おつまみ」
「おっ枝豆ー!」
ざるいっぱいの枝豆をUFOキャッチャーのように奪い去り、バクバクと食べ始める怜。
いつも通りの彼の様子に大きくため息をついて、枝豆に手を伸ばした。
「ところで、さっきの怜の宣言」
「時森を幸せにしてやるってやつか」
「うん、それなんか、プロポーズみたいだね」