「怜、すっごく演技上手だったね。」
「そうか? お前が寝たあと結構練習してたからな。うるせーかなとは思ってたんだけど」


それは、もしかして気を遣ってくれていたってことなのかな。
そんなの気にしなくてもいいのに。


「全然気付かなかったよ。そんな気遣わなくていいし。怜のくせにさ」
「オレ様のくせにってなんだよ」


すっかり夜になった街は歩きやすい気温。
しかし今日は怜の誕生日。あんまり帰るのが遅くなってはいけない。


「じゃ、誕生日会しよ!帰るよ!」
「え、」


目を見開いた彼の腕を掴んで、駅の方へ引っ張った。


「今日はなんとスペシャルゲストを用意しているので」
「はあ?誰だよ。てか服伸びるから引っ張んな」

こっち、と自然に繋がれた手。
一気に体温が上昇する。


「早く帰るんだろ、行くぞ」
「う、うん」


顔が見られない。彼もきっと私の方を見ていない。

さっきの映画のワンシーンを思い出して、ぐっと肩に力が入る。

不良少年と更生を任された優等生の出会いのシーン。



『手ぇ繋ぐのって、いいよな』
『どこが?なんのつもり、離して』
『お前の意志なんて関係なく、こうできんの』



怜は、初めてのキスだったのかな。

気になるけど聞けない。答え合わせは怖い。

それでも手のひらから伝わるぬくもりだけは信じていたい。


家のドアノブを引くまで、私たちはずっと触れ合ったままだった。