「よっ」
全く見覚えのない黒髪、黒縁眼鏡、そして黒マスク。
「え、どなた……」
戸惑っていると見知らぬ彼はマスクを顎までさげ、「オレ様に決まってんだろ」と無遠慮に私のお茶をガンガン飲んでいく。
「馬鹿なの!?マスク外しちゃダメでしょ!?」
「はいはい。待たせたな」
全くもって流されてもいいような指摘ではなかったが、あんまり大声出すとかえって目立つ。怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえた。
どうやらウィッグを被ってまで変装してきたらしい。怜といえば金髪なので全く気づけなかった。
その上。
「その眼鏡どうしたの? 手塚くんの私物だよね」
「うーわ本当にわかるのかよ。キモチワリー。詩壇に奢らなきゃいけなくなったじゃねーか、責任取れ」
「人の反応で勝手に賭けしないでくれる?」
手塚くんがいつも学校にしてきている黒縁の眼鏡。
自分でも少し気持ち悪いとは思ったが、わかってしまったものは仕方がない。
「お前が喜ぶと思って。どうせこういう眼鏡の男が好みなんだろ」
「失敬な。私が好きなのは知性が溢れる人であって、ただ眼鏡をかけただけの怜じゃないわよ」
「照れんな」
全く照れていない。
……いや、ちょっとびっくりしたけど。
かっこいいとか、意外と似合ってるとか、思っちゃったりしたかもしれないけど。
「む、蒸し暑いし早く行こう」
「そうだな」
マスク越しでもわかる、ニヤニヤ顔。
ああ、また遊ばれている。