彼のいない毎日は、静寂。

その一言に尽きる。

開くことがないと分かっていても、眠る直前まで扉の鍵を開けてしまう。
チェーンが引っかかって、大声で開けろって怒る声が聞きたくて。


「……ま、そんなこと、あるわけないんですけど」


アルバイト先から帰宅した午後七時。
くたくたになりながらもテレビをつけた。

今はもう、テレビとか雑誌とか、メディアを媒介しないと会えない人。
いつでも家に帰ってくるなんて、思ってた私の馬鹿。

後悔したってもう遅いんだから。

沈みそうになる心に喝を入れ、シャワーを浴びようとしたそのとき、
机の上の携帯がバイブレーションを始めた。

ディスプレイには『手塚』の文字。


「もしもし?」
「時森、大至急事務所に来てくれ」
「はあ? 今何時だと思ってんの」
「まだ七時だろ。電車代は出すから頼む」


無機質なメロディーが通話終了を告げる。

ここまで一方的な電話を私は知らない。
そして今後の人生もこの一方的さを超える出来事はまずないに違いない。

まだ七時。

そんなこと言われたってバイト帰りだし、基本家でゆっくりするのが好きなのに。


……でも、事務所ってことは、手塚くんは仕事中ってことだよね。

テレビの中の三人はにこやかに笑っている。
重い腰を上げた私は電車の時間を調べ始めた。