怜が事務所の応接間を我が物顔で使っていると聞いたのは、それから一か月後のことだった。
最初からそれでよかったじゃないか、と腹立たしい気分になりながらも手塚くんの話を聞く。
学校という公的な場では彼と落ち着いて話ができる。なんなら先日交換した連絡先にメッセージを送ることよりも気楽だ。
「で、怜はなにも言わないんだが、何があったんだ」
一通り近況報告が終わると、やはりこの質問を投げかけられる。
都合がいいって言われて腹が立ったので
家から追い出しました。
……いや、絶対今更どうしたって言われる。というか私が一番それを思っている。
「言いたくないならいいが。あいつが静かだと俺もアキさんも調子狂うんだ。どうにかしてくれ」
「そんなこと言われても、私はもう部外者だし」
「部外者にユニットの内情話すわけないだろうが」
それもそうなんだけれども。
話されたってどうにもできない。
「でも事実うちにもう怜はいないし、住ませる気もないんだよ? 帰ってくるなって言っちゃったし」
言っちゃった、なんてまるで、私が怜を拒否したことを後悔しているみたいだ。断じてそんなことはない。
全く、まるで後悔していない。
「じゃあ事務所にくるなりなんなりして早く引き取ってくれないか? みんな迷惑してるんだ」
「なんで私が。保護者呼べばいいでしょ」
「それは……」
手塚くんが珍しく言い淀んだ。
なんの気なしに言ってしまったが、触れてはいけないことだったのだろうか。
意を決したかのような表情。
「あいつの父親は、来ない。というより、あいつがそれを望まない」
「それってどういう、」
「怜が待ってるのは時森だけじゃないのか」
それ以上は何も教えてくれなくて、肝心な部分は隠すくせにこちらに要求ばかりするのは彼の悪いところだと思う。
だから私は怜のことが気になって、怜のことばかり考えてしまうんだ。